半導体のキャリアとは何か:電子・正孔・移動度とは
トランジスタは「電流の流れる・流れない」を制御する素子です。では「電流」とは一体何なのでしょうか。この問いに答える鍵が「キャリア」です。
電流とは:キャリアの移動
電流の正体は「粒子の移動」です。半導体の中で実際に動いている粒子を「キャリア」と呼びます。
トランジスタは電流のON/OFFを制御する素子ですが、キャリアが流れる・流れないを制御しているのです。
では、キャリアとは何でしょうか。
キャリアとは:電子と正孔
キャリア(career)とは「半導体の中を移動して電流を運ぶ粒子のこと」です。具体的には「電子と正孔」という2種類のキャリアが存在します。
- 電子(electron)
- 正孔(hole, ホール)
マイナスの電荷をもつ粒子。
プラスの電荷をもつ粒子。電子が抜けた「空席」が、あたかもプラスの電荷を持つ粒子のように振舞う。
どちらのキャリアも「電荷をもった粒子」として理解できます。
なお、正孔は電子の抜け穴であり、実際に存在する粒子ではありません。しかし、半導体の中では「正孔が動く」と考えた方が、電流の振る舞いを簡単に説明できるため、用いられる概念です。
キャリアが存在する物質に電圧を印加すると、電子はプラスに引き寄せられて移動します。すなわち、電流が流れるのです。
移動度とは:キャリアの動きやすさ
キャリアが存在する物質に電圧を印加すると、キャリアが移動し、電流が流れます。しかし、キャリアが存在していても、どれくらい速く・スムーズに動けるかは別問題です。この「動きやすさ」を表す指標が「移動度」です。
移動度(mobility)とは「物質中においてキャリア(電子または正孔(ホール))の移動のしやすさを表す指標」です。移動度が高いほどキャリアが移動しやすいです。
移動度は下式で表されます。
$$v = \mu \times E$$
v:キャリア速度、 μ:移動度、 E:電界
ある電界Eにおけるキャリアの速度を表す式であり、比例係数μを移動度と呼びます。単位はm2/V・sです。
一般に、移動度が高いほどキャリアは速く移動できるため、半導体デバイスの高速化や低消費電力化に有利です。ただし、実際のデバイス性能は移動度だけで決まるわけではなく、用途に応じたバランス設計も重要になります。
移動度を決める要因
移動度は「結晶中をキャリアがどれだけ散乱されずに進めるか」で決まります。
キャリアは電界によって加速されますが、結晶中を一直線に進めるわけではありません。実際には、原子の振動や不純物、欠陥などによって進行方向を乱されます。この「散乱」が多いほど、キャリアは進みにくくなり、移動度は低下します。
キャリアの散乱要因の代表例は以下の通りです。
- 格子散乱(lattice scattering / phonon scattering)
- 不純物散乱(impurity scattering)
- 欠陥・界面散乱(defect / interface scattering)
結晶中の原子が熱によって振動することで生じる「フォノン(格子振動)」とキャリアが相互作用し、進行方向を乱される散乱。温度が高くなるほどフォノンが増加し、散乱が強くなる。
ドーピングによって導入された不純物原子やイオンが作る電荷分布により、キャリアの進行方向が乱される散乱。低温や高ドーピング濃度の条件で支配的となり、温度依存性は比較的小さい。
結晶中の欠陥(空孔、転位、結晶歪みなど)や、異なる材料の境界である界面に存在する乱れによってキャリアの進行方向が乱される散乱。結晶品質や界面の平坦性・清浄度に強く依存する。
すなわち、移動度とは材料そのものの性質だけでなく、「温度」「ドーピング(不純物濃度)」「結晶品質」といったプロセス条件を強く反映したパラメータです。
このため、実際の半導体デバイスでは、理想的な移動度がそのまま得られるわけではありません。さらに高い電界をかけると、移動度の考え方自体が成り立たなくなる場合もあります。








