パワーダイオードの種類と動作原理:PN接合・PIN接合・ショットキーバリアダイオード(SBD)
パワーダイオード
パワーダイオードは、電流を1方向のみ流す「整流作用」を示すパワーデバイスです。
上図はpn接合ダイオードという種類のダイオードの例です。p側をプラス、n側をマイナスに電圧を印加すると電流が流れますが、n側をプラス、p側をマイナスとすると電流は流れません。この性質を「整流作用」と呼びます。
パワーダイオードの種類
パワーダイオードには大きく3つの種類があります。
- PN接合ダイオード
- PINダイオード(PIN接合ダイオード)
- ショットキーバリアダイオード(SBD)
それぞれの特徴は下表のとおりです。
特性 | PN接合ダイオード | PINダイオード | ショットキーバリアダイオード(SBD) |
---|---|---|---|
構造 | P型 + N型のPN接合 | P型 + I層 + N型のPIN接合 | 金属 + N型半導体のショットキー接合 |
順方向電圧降下 (VF) | 約0.7V~1.5V | 約0.7V~2V | 約0.2V~0.5V |
逆回復時間 | 遅い (μsオーダー) | 調整可能 (I層の厚さによる) | 非常に速い (ほぼゼロ) |
耐圧 | 高い (~数kV) | 高い (I層が広いほど耐圧向上) | 低め (~数百V) |
スイッチング速度 | 遅い | 高速 (高周波用途) | 超高速 (高周波用途) |
主な用途 | 整流、電源回路 | 高周波スイッチ、RF回路 | スイッチング電源、DC-DCコンバーター |
各素子の動作原理と特徴を見ていきましょう。
PN接合ダイオード
PN接合ダイオード(pn junction diode)は「P型半導体とN型半導体の接合により整流作用を実現したダイオード」です。
一般的なシリコンダイオードで、PN接合のシンプル・基本的な構造です。動作原理を見ていきましょう。
PN接合ダイオードの動作原理
P型半導体とN型半導体を接合すると、接合界面で電子と正孔が再結合し、キャリアのない領域である空乏層が形成されます。
空乏層のP型領域には、電子を受け取って負に帯電したアクセプターイオンが存在します。一方、N型領域には正孔を受け取って正に帯電したドナーイオンが存在します。ドナーイオンとアクセプターイオンの静電的引力により、空乏層には内部電界が発生します。
この内部電界により、自由キャリアの拡散が抑えられ、これ以上電流が流れない平衡状態となります。
このPN接合に順方向バイアスを印加してみましょう。すなわち、P型半導体を正極(アノード)、N型半導体を負極(カソード)として電圧を印加します。
PN接合に順方向バイアスを印加すると、空乏層近傍のn型半導体の電子はp型半導体側(プラス極側)に、p型半導体の正孔はn型半導体側(̠マイナス極側)に引かれます。バイアスによって空乏層にキャリアが流れ込み、空乏層幅が狭まります。空乏層が狭まることで内部電界も小さくなり、電流が流れます。
反対に、PN接合に逆方向バイアスを印加してみましょう。すなわち、P型半導体を負極(カソード)、N型半導体を正極(アノード)として電圧を印加します。
PN接合に逆方向バイアスを印加すると、空乏層近傍のn型半導体の電子はプラス極側に、p型半導体の正孔はマイナス極側に引かれるため空乏層が広がります。空乏層が広がり内部電界も大きくなるため、電流はより流れにくくなります。従って、pn接合に逆方向バイアスをかけても電流は流れません。
これにより、順方向バイアスでは電流が流れ、逆方向バイアスでは電流が流れない「整流作用」が発現します。
PN接合ダイオードの弱点
PN接合ダイオードは「空乏層が狭く、耐圧が低い」という弱点があります。
耐圧とは、ダイオードが逆方向(逆バイアス)電圧に耐えられる能力のことです。PN接合ダイオードに逆方向電圧をかけ続けると、ある電圧を超えた瞬間に降伏現象(ブレークダウン)が発生し、急激に逆方向電流が流れてしまいます。これにより、ダイオード本来の整流機能が失われてしまいます。
逆耐圧が高いダイオードほど、高電圧の回路で使用できます。例えば、高電圧の交流を直流に変換する整流回路には高耐圧のダイオードが必要です。しかし、PN接合ダイオードは耐圧が低いため、高電圧用途には適していません。
PINダイオード(PIN接合ダイオード)
PN接合をより高耐圧化したダイオードがPINダイオードです。
PINダイオード(PIN Diode)とは「P型半導体(P層)、真性半導体(I層)、N型半導体(N層)の3層構造を持つダイオード」です。
PINダイオードは、I層の存在により空乏層が広がり、単純なPN接合よりも高耐圧という特徴があります。動作原理はPN接合ダイオードと同じです。
PINダイオードで耐圧が向上する理由
PINダイオード(PIN Diode)が高耐圧な理由は「I層(Intrinsic層)が逆バイアス時の電界を分散し、局所的な電界集中を防ぐため」です。
ダイオードに逆バイアス電圧を印加すると、電界は主に空乏層に集中します。PN接合ダイオードでは空乏層が狭いため、接合界面に電界が集中しやすく、降伏電圧が低くなります。
これに対し、PINダイオードでは、P層・N層の間にI層を配置することで、広い空乏層を確保し、電界を全体に分散させることができます。
この動作は、直列回路の抵抗に似ています。低抵抗なP層・N層に比べ、高抵抗なI層には大きな電圧がかかります。その結果、電界はI層全体に広く分布し、局所的な電界集中が抑えられます。
PNダイオードでは、狭い空乏層に電界が集中しやすく、降伏が起こりやすいですが、PINダイオードではI層が広い空乏層を形成するため、電界が分散され、高い降伏電圧に耐えることができます。 これにより、より高電圧の用途でも動作可能になります。
ショットキーバリアダイオード(SBD)
ショットキーバリアダイオード(Schottky barrier diode)は「金属と半導体の接合を利用したダイオード」です。
金属と半導体を接合すると、pn接合と同じように整流作用が発現します。これを利用したのがショットキーバリアダイオードです。
ショットキーバリアダイオード(SBD)の動作原理
ショットキーバリアダイオードで整流作用が発現する原理を見ていきましょう。ここでは、金属とn型半導体において、金属の仕事関数が、n型半導体よりも大きい場合、つまりΦm > Φsである場合を考えます。このような接合を「ショットキー接合」と呼びます。
仕事関数φは「フェルミ準位EFと真空準位Evacのエネルギー差」として定義されます。この場合、N型半導体の伝導体の電子は金属の伝導電子よりも高いエネルギーを持っています。
金属とn型半導体を接合すると、半導体の伝導電子が金属の伝導電子よりも高エネルギーなため(半導体の方がEFが大きい為)、接合界面近くの電子が金属側に移動します。
接合により電子が移動し、半導体が正・金属が負に帯電するため、界面に電気二重層が生成します。この結果、半導体内に逆方向電界(空乏層)が形成され、これがダイオードの整流作用をもたらします。
ショットキー接合により、順方向バイアスでは空乏層が狭まり電流が流れ、逆方向バイアスでは空乏層が広がり電流が流れない、整流作用が発現します。
特に、ショットキーバリアダイオードは非常に低い順方向電圧(約0.2V〜0.4V)で動作します。これは、金属と半導体の接合で形成される空乏層が非常に狭く、そのため電界が局所的に強くなるためです。
結果として、電流が流れやすくなり、他のダイオード(例えばPN接合ダイオード)よりも低い順方向電圧で動作します。
前の講座

次の講座
