パワー半導体・パワーデバイスとは：特徴・種類・応用例

2022年7月31日 2025年2月24日

semi-journal

パワー半導体とは？

(サンケン電気の資料を基に筆者作成)

パワー半導体とは「電力(高電圧・大電流)を制御するために使用される半導体」です。パワー半導体を使用したデバイスを「パワーデバイス」と呼びます。

パワーデバイスは、

電力変換

電力制御

スイッチング

などを効率的に行い、エネルギーの供給や管理を担っています。

例えば、発電所で作られた数十万Vの電気は、送電・変圧を経て100V電源として家庭に届けられています。しかし100Vでは電化製品は動作しません。テレビやエアコンにはマイコンなどの電子部品が納められており、これらは3-5Vで動作します。最新のスマホ急速充電器でも9V程度です。

すなわち、電化製品が動作するためには、100V電源の電圧を3V~9Vに変換する必要があり、この変換に使われる半導体が「パワー半導体」です。

パワー半導体には4つの役割があります。

パワー半導体では4つの働きのうち1つを利用し、電力変換を行い電化製品などに電力を供給しています。

なお、パワー半導体1つで4つの性能をすべて発揮するわけではありません。コンバータやインバーターなどそれぞれの役割に必要なデバイス構造・回路を構成することで、機能が発現します。

電力変換が必要な理由は、異なる機器や用途に適した電圧や電流を供給するためです。これにより、エネルギーの効率的な利用や安定した電力供給が可能になります。

世の中の産業機器や家庭用電子機器は、それぞれ適した動作電圧があります。各製品を例にして、パワー半導体の役割を学びましょう。

家庭のコンセント(100V・交流(AC))からスマートフォンの充電に必要な電圧(5V・直流(DC)）に変換するために、AC-DCコンバーターが使われます。

太陽光発電システムでは、太陽光パネルが発生させる直流(DC)を、家庭や産業機器で広く使われる交流(AC)に変換する必要があります。この変換を行う装置はインバーターと呼ばれ、太陽光発電システムに不可欠なデバイスです。

高電圧・大電流を使用する電気自動車(EV)ではパワー半導体・パワーデバイスが必要不可欠です。

EVのバッテリーは直流(DC)ですが、モーターを動かすには交流(AC)が必要です。インバーターが直流を交流に変換し、モーターの駆動を制御します。パワーデバイスの変換効率が高いほど、電力損失が減り、航続距離が伸びます。

EVの駆動用バッテリーは数百Vですが、ライトやエアコンなどの補機類は12Vで動作します。DC-DCコンバーターがバッテリー電圧を変換し、低電圧の機器に適した電力を供給します。

家庭用コンセントや充電器(AC)からEVバッテリー(DC)へ充電するために、AC-DC変換を行います。

一口にパワー半導体と言っても、複数の種類があります。

パワー半導体デバイスは大きく3つに分類されます。

ダイオードは電流を一方向に流す働きをします。主に電力を安定させる「整流」という役割を持っています。

トランジスタは電気の「スイッチ」として使われます。電流をON/OFFすることで、電力を効率よく制御します。

サイリスタは大電力を制御するためのスイッチで、特に電力変換装置や電車の制御などで使われます。

また、パワーダイオード・パワートランジスタ・パワーサイリスタは、デバイス構造によってさらに細分化されます。

デバイス名	個別デバイス	駆動方式	キャリア	機能	特徴
パワーダイオード	PN接合ダイオード	なし	電子・正孔(バイポーラ)	低電圧整流	短逆回復時間
パワーダイオード	PiNダイオード	なし	電子・正孔(バイポーラ)	中-高電圧整流	長逆回復時間
パワーダイオード	ショットキーバリアダイオード	なし	電子(ユニポーラ)	低-中電圧整流	逆回復時間ほぼ無し
パワートランジスタ	パワーMOSFET	電圧駆動	電子(ユニポーラ)	低-中電圧スイッチング	高速動作
パワートランジスタ	IGBT	電圧駆動	電子(ユニポーラ)	中電圧スイッチング	超高速動作
パワートランジスタ	GaN HEMT	電圧駆動	電子・正孔(バイポーラ)	中-高電圧スイッチング	低速動作
パワートランジスタ	パワーバイポーラトランジスタ	電流駆動	電子・正孔(バイポーラ)	中-高電圧スイッチング	低速動作
パワーサイリスタ	サイリスタ	電流駆動	電子・正孔(バイポーラ)	超高電圧スイッチング	超低速動作
パワーサイリスタ	GTOサイリスタ	電流駆動	電子・正孔(バイポーラ)	超高電圧スイッチング	超低速動作