ワイドバンドギャップ半導体とは:SiC・GaN・Ga₂O₃のメリット
ワイドバンドギャップ半導体とは
ワイドバンドギャップ半導体(WBG)とは「バンドギャップの大きい半導体」です。明確な定義はないものの、2eV以上のバンドギャップを持つ半導体を呼ぶことが多いです。
通常(従来型)半導体の代表例はシリコン(Si, 1.12eV)やゲルマニウム(Ge, 0.66eV)、ワイドバンドギャップ半導体の代表例は炭化ケイ素(SiC, 3.3eV)、窒化ガリウム(GaN, 3.4eV)です。
ワイドバンドギャップのメリット
ワイドバンドギャップ半導体はパワーデバイス用途で活躍しています。パワーデバイスの用途から順を追って、ワイドバンドギャップ半導体のメリットを説明します。
パワー半導体とは:電力を扱う半導体
パワー半導体は電力を扱う半導体です。例えば、AC-DC変換(コンバータ):交流を直流に変換する際に使用されています。
例えば、家庭用コンセントは交流(AC)ですが、スマホ充電は直流(DC)のため変換が必要です。
パワー半導体による交流-直流変換
次に、半導体のpn接合を用いたダイオードを考えます。ダイオードは電流を1方向にしか流さない「整流(rectification)」という性質があります。
交流電圧をダイオードに接続すると、順方向電圧が印加された場合のみ電流が流れます。つまり、パワーダイオードの整流作用により、交流の一部を取り出し、直流に近い形に変換できます。
このとき、逆方向電圧が印加されても絶縁性を保つ力、すなわち「絶縁破壊電圧(耐圧)」が高いことが重要です。耐圧が不足していると、降伏現象により逆方向電流が流れて整流できなかったり、ダイオードが壊れて整流機能が失われてしまいます。
半導体の耐圧を決める要因:バンドギャップ
半導体の耐圧を決める重要な要因の1つが「バンドギャップの大きさ」です。これはアバランシェ降伏のメカニズムに関係します。
アバランシェ降伏は、pn接合に強い逆方向電圧(逆バイアス)が印加した際に発生します。
このとき、少数キャリアである電子が電界によって加速され、結晶中の原子に衝突します。その衝突で他の電子(価電子)にエネルギーを与え、新たな電子を伝導帯へ励起します。
この励起が連鎖的に起こると、急激に大きな電流が流れるようになります。これがアバランシェ降伏の原理です。
アバランシェ降伏をバンド図で見ていきましょう。
価電子が伝導帯に移動するためには、バンドギャップに相当するエネルギーが必要です。つまり、衝突された価電子がバンドギャップを飛び越えることが、電子正孔対の生成につながります。
バンドギャップが大きい材料ほど、電子正孔対の生成に必要なエネルギーが大きくなるため、降伏に至るまでに必要な電界(耐圧)が高くなります。これが、ワイドバンドギャップ半導体が高耐圧となる原理です。
ワイドバンドギャップ半導体を用いると、より高電圧の電力も制御できるようになることが分かりましたね。
ワイドバンドギャップ材料の特性
各種ワイドギャップ半導体材料の物性値を下表に示しました。
項目 / 材料 | Si | 4H-SiC | GaN | ダイヤモンド | β-Ga₂O₃ |
---|---|---|---|---|---|
バンドギャップ [eV] | 1.1 | 3.3 | 3.4 | 5.5 | 4.8 |
絶縁破壊電界強度 [MV/cm] | 0.3 | 3.0 | 3.3 | 10 | 8.0 |
電子移動度 [cm²/Vs] | 1,500 | 950 | 1,500 | 2,200 | 300 |
比誘電率 (εr) | 11.8 | 9.7 | 9 | 5.5 | 10 |
バリガ性能指数 (相対) | 1 | 約340 | 約870 | 約18,000 | 約3,400 |
バリガ性能指数(Baliga’s Figure of Merit, BFOM)はパワーデバイス向け材料の性能指数です。高いほどパワー半導体材料に適しています。
シリコンと比較し、バンドギャップの大きいSiCやGaN、Ga2O3はバリガ性能指数が大きく、パワーデバイスに適していることが分かります。