半導体のバンド理論とバンドギャップ

半導体の電気特性を理解するには「バンド理論」が有用です。バンド理論を簡単・わかりやすく説明します。

バンド理論の基本

原子間結合による安定化:結合性軌道と反結合性軌道

バンド理論を理解するには、結合性軌道と反結合性軌道の考え方が重要です。

共有結合 結合性軌道 反結合性軌道

1個の孤立しているSi原子を考えます。電子は原子核の周りを周っています。その軌道は電子軌道とよばれ、あるエネルギー準位を持ちます。

2個のSi原子が近づくと、同じエネルギー順の軌道同士が相互作用し、新たに高エネルギーと低エネルギーの軌道を作ります。エネルギーの低い方の軌道を結合性軌道、高い方の軌道を反結合性軌道と呼びます。

電子は安定状態を好むため、エネルギーの低い結合性軌道から占有します。結合性軌道の電子のエネルギーは、Si原子が孤立している状態よりも低いため、結合を作った方がエネルギー的に有利です。

したがって、Si原子は単体では存在せず、複数個集まることで結合を形成します。これが、結合性軌道と反結合性軌道の考え方です。

エネルギーバンドの形成

バンド構造 シリコン

先ほどはSi原子2個のみを考えましたが、更に数を増やしてみましょう。

原子の数が、4個、10個と増えていくと、結合性軌道・反結合性軌道ともに軌道が増えていきます。各軌道のエネルギー準位は重なることなく、わずかにずれた異なるエネルギーを持ちます(縮退)。

Si原子が∞個まで増えると、重なり合ったエネルギー準位が連続したバンドを形成します。結果として、Si結晶中の電子のとり得るエネルギーは幅を持ったものとなります。エネルギー準位がバンド構造になるため、この理論を「バンド理論」と呼びます。

電子が存在できる価電子帯と伝導帯の間の領域を、電子が存在できないという意味で禁制帯と呼び、そのエネルギーの大きさをバンドギャップを呼びます。

各材料のバンド構造

世の中の材料は電気抵抗率に応じて「金属・半導体・絶縁体」に分けられます。それぞれの電気特性をバンド構造から理解してみましょう。

バンド構造 半導体 金属 絶縁体
  • 金属
  • 電子で満たされた価電子帯と、空の伝導帯は接触しています。価電子帯の電子は、空軌道の伝導帯に容易に移動できるため、金属は非常によく電気を通す材料です。

  • 半導体
  • 価電子帯と伝導帯の間には1eV程度のバンドギャップが存在します(Si:1.2eV)。価電子帯の電子は伝導帯に遷移することは出来ず、高抵抗で電気は流れません。

    しかし、価電子帯の電子にバンドギャップ以上のエネルギーを与えると、電子は伝導帯へ励起し、価電子帯には電子の抜け穴としての正孔が生成します。電子・正孔がキャリアとなり、抵抗率が低下し電気が流れやすくなります。

  • 絶縁体
  • バンドギャップのエネルギーは半導体よりも大きく、光エネルギーで励起することが不可能です。結果、どのような状態でも電気を非常に流しにくい材料です。

原子構造からバンド構造を理解する

各材料のバンド構造を、原子・電子構造から理解してみましょう。

材料 バンドギャップ
  • 金属
  • 金属原子同士は金属結合と呼ばれる結合により結びついています。金属は、オクテット則を満たし安定化するために電子を放出したがります(カチオン化)。

    放出された電子は金属原子全体で共有され、金属結晶全体を自由に動き回ることが出来ます。この電子は自由電子と呼ばれ、金属中に常に存在する電子です。

    自由電子は、エネルギーを受けずとも自由に動けるため、金属にバンドギャップはありません。

  • 半導体
  • 電子は各原子で共有され、共有結合を作ります。プラスの原子核同士を結び付けているため、電子は原子核から引力を受け非常に動きづらい状態です。

    電子が外部からのエネルギーを受けると、原子核の束縛から逃れ、結晶中に自由電子として存在することができるようになり、電気が流れます。

    電子が原子核からの束縛から逃れるために必要なエネルギーが、半導体のバンドギャップです。

  • 絶縁体
  • 結合を作っている電子と原子核の束縛が強く、外部からのエネルギーでは束縛から抜け出すことが出来ません。これが、絶縁体のバンドギャップが大きいことに相当します。

材料別のバンドギャップ一覧

材料化学式バンドギャップ [eV] (302K)
ケイ素Si1.11
セレンSe1.74
ゲルマニウムGe0.67
炭化ケイ素SiC2.86
リン化アルミニウムAlP2.45
ヒ化アルミニウムAlAs2.16
アンチモン化アルミニウムAlSb1.6
窒化アルミニウムAlN6.3
ダイアモンドC5.5
リン化ガリウムGaP2.26
ヒ化ガリウムGaAs1.43
窒化ガリウムGaN3.4
酸化ガリウムβ-Ga2O34.5~4.9
硫化ガリウムGaS2.5
アンチモン化ガリウムGaSb0.7
窒化インジウムInN0.7
リン化インジウムInP1.35
ヒ化インジウムInAs0.36
酸化亜鉛ZnO3.37
硫化亜鉛ZnS3.6
セレン化亜鉛ZnSe2.7
テルル化亜鉛ZnTe2.25
硫化カドミウムCdS2.42
セレン化カドミウムCdSe1.73
テルル化カドミウムCdTe1.49
硫化鉛PbS0.37
セレン化鉛PbSe0.27
テルル化鉛PbTe0.29
酸化銅(II)CuO1.2
酸化銅(I)Cu2O2.1
酸化マグネシウムMgO7.8
二酸化ケイ素SiO28.95
酸化ベリリウムBeO10.6

コメント

  1. 半導体勉強中サラリーマン より:

    半導体について勉強中のサラリーマンです。「半導体」という言葉の科学的定義について、以下の認識で合っているか、確認させていただけますでしょうか?

    半導体が、「状況によって、電気を通すようにすることも、電気を通さないようにすることもできる物質」と定義するならば、100%純粋なSiは半導体ではないように思えるのですが、その理解であっていますでしょうか?

    さらに、n型半導体も、p型半導体も、あくまで「pn接合させれば、電気を通すようにすることも、電気を通さないようにすることもできる」と理解したのですが、そうなると、n型半導体も、p型半導体も、それら単体では(=pn接合させなければ)、科学的な定義上は半導体ではない、という理解でよろしいでしょうか?

    いくつものサイトを見ているうちに、混乱してしまい・・・。

    1. semi-journal より:

      コメントありがとうございます。

      半導体をどのように定義するのかが重要かと思います。一般に、半導体は、導体と絶縁体の中間的な抵抗率をもつ物質と定義されます。一方、この電気抵抗率(小さい程電気を良く通す)に明確な範囲・基準はありません。

      しかし一般には、

      • 導体:10-8~10-4Ωcm
      • 半導体:10-4~108Ωcm
      • 絶縁体:108~1018Ωcm

      程度と認識されており、これが大まかな半導体の定義となります。これを前提に、ご質問の内容についてご回答いたします。

      Q1.100%純粋なSiは半導体とは言えないのか?

      A1.いいえ、100%純粋なSiは半導体です。純粋なSiは電気を流しにくいとはいえ、電気抵抗率は3.97×103Ωcmです。絶縁体より10万倍以上電気を流しやすく、導体よりも百万倍以上電気を流しにくい材料です。

      Q2.n型半導体/p型半導体も、単体でも科学的定義では半導体ではないのか?

      A2.いいえ、n型/p型半導体はいずれも半導体です。n型半導体/p型半導体は主に、P(リン)/B(ホウ素)をSiにドープすることで作られます。ドープ濃度により大きく抵抗率は変化するものの、その範囲は3.97×103Ωcm(真性半導体)~1.0×10-4Ωcm(不純物半導体)と、半導体の一般的な定義に収まります。pn接合はあくまでも、半導体デバイスを作るために必要な構造であり、p型/n型シリコンはいずれも単体で半導体です。

      他方、半導体を「整流作用など、半導体特有の性質を発現するデバイス」と定義するのであれば、ご指摘の通りp型・n型半導体は接合して初めて半導体と言えるでしょう。

      1. 半導体勉強中サラリーマン より:

        早速ありがとうございます。なるほど、大変よくわかりました。

        ・半導体の科学的な定義は、あくまで「導体よりも電気を通しにくく、絶縁体よりも電気を通しやすい物質・材料」である。

        ・そのような物理的性質を利用して、pn接合等の技術を用いて、「電気が流れる/流れないを制御している」

        というわけですね。それであれば、確かに100%純粋なSiも、p型半導体も、n型半導体も、確かに科学的な意味でも半導体ですね。

        ありがとうございます。

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