半導体のpn接合とは:空乏層と内蔵電位による整流作用
電流を止める仕組み:pn接合
トランジスタやダイオードは、電流を「流す/止める」を切り替えるための素子です。そのためには、意図的に電流が流れない状態を作れることが不可欠になります。
半導体では、電源を接続しても内部構造によって自然に電流が遮断される状態を作ることができます。その最も基本的な仕組みがpn接合です。
pn接合とは
pn接合とは「p型半導体とn型半導体を接合させた構造のこと」です。キャリアの拡散により自然に電流を流れにくくする性質を生みだします。
pn接合をエネルギーバンド図で示した例が下図です。
詳細は後述しますが、pn接合することで価電子帯・伝導帯にエネルギー障壁(傾き、坂)が形成されます。この障壁によって、n型半導体中の伝導帯電子はp型半導体側へ移動しにくくなり、外部から電圧を加えない限り、電流はほとんど流れません。
正孔の場合も同様に、p型半導体の価電子帯中の正孔は、n型半導体側には移動しにくくなります
なお、正孔は電子の抜け穴として定義される概念であり、正孔の移動は価電子帯中の電子の移動として表現できます。そのため、p型半導体側でも、エネルギー障壁によってキャリアの移動が妨げられる点は同じです。
なお、pn接合とは物理的に貼り合わせることを意味するわけではなく、半導体中にp型領域とn型領域を隣接して形成することを指します。
pn接合によるエネルギー障壁形成の原理
p型半導体とn型半導体を接合すると、なぜエネルギー障壁が形成されるのでしょうか?その原理は以下の通りです。
多数キャリアの拡散
p型半導体には正孔が多く、n型半導体には電子が多く存在しています(これらを多数キャリアと呼びます)。この濃度の偏りがある限り、キャリアは自然に拡散しようとします。
p型側の正孔はn型側へ、n型側の電子はp型側へと、濃度差に起因した拡散により移動します。拡散した電子と正孔は界面近傍で電荷中和し、消滅します(対消滅)。
空乏層の生成
キャリアの対消滅により、pn接合界面にはキャリアのない領域が生成します。この領域を「空乏層」と呼びます。
空乏層のp型領域には、電子を受け取り負に帯電したB原子(アクセプターイオン)が存在します。n型領域には正孔を受け取り正に帯電したP原子(ドナーイオン)が存在します。
結果、ドナーイオンとアクセプターイオンの静電的引力により、空乏層には電界が発生します。これを内部電界・内蔵電位と呼びます。
空乏層生成後の平衡状態
空乏層が生成すると、多数キャリアの拡散はストップします。
p型側では正孔が、n型側では電子が、空乏層に残ったイオンによる電界によって反発され、これ以上拡散できなくなります。この状態を「平衡状態」と呼びます。
ここで、pn接合のバンド図をもう一度見てみましょう。
接合界面付近のエネルギー準位の傾き(坂)は、空乏層に生じた電界によって形成されています。 このエネルギー障壁により、n型半導体中の伝導帯電子はp型半導体側へ移動しにくくなり、外部から電圧を加えない限り、電流はほとんど流れません。
この内蔵電位によって、pn接合は一方向には電流が流れやすく、逆方向には流れにくい性質を持ちます。 これが、ダイオードやトランジスタが「電流を制御できる」物理的な理由です。
では、この自然に形成されたエネルギーの壁を、外部から意図的に動かすことができたらどうなるでしょうか。 次節では、この「壁を操作する」仕組みとして、トランジスタの動作原理を解説します。







