半導体のエネルギーバンド図:価電子帯・伝導帯・禁制帯
前回の解説ではキャリアの動き方を見てきました。しかし、半導体ではキャリアはどこでも自由に動けるわけではありません。
トランジスタ:キャリア移動を制御する素子
トランジスタは、電流を流すか流さないかを制御できる「電気のスイッチ」です。
同じ半導体なのに、なぜ電流が流れる場合と流れない場合があるのでしょうか?言い換えれば、どうやってキャリアの移動を制御しているのでしょうか?
キャリアの移動とエネルギー
トランジスタでは、キャリアが通過できない「エネルギーの壁」を作ることで電流を制御しています。
坂のイメージで考えると、平坦な領域ではキャリアは自由に移動できますが、十分なエネルギーがなければ、坂を越えることはほとんどできません。
トランジスタでは、外部から加えた電圧によって、半導体中のエネルギーの分布(地形)を変化させ、キャリアの移動、すなわち電流の流れる・流れないを制御しています。
では、この「エネルギーの壁」は、半導体の中でどのように表現されているのでしょうか?
エネルギーバンド図(バンド図)とは
半導体・トランジスタにおける「エネルギーの壁(障壁)」は、エネルギーバンド図(バンド図)によって表現されます。
エネルギーバンド図(または、バンド図)とは、半導体中で電子が「存在できる・できない」エネルギーの範囲を表した図です。
エネルギーバンド図では、縦方向がエネルギーの高低を表します。キャリアは、エネルギー的に「許された領域」にしか存在することができません。
このとき
- 電子が存在でき、束縛された状態にある領域:価電子帯(Ev)
- 電子が存在でき、自由に移動できる状態にある領域:伝導帯(Ec)
- 電子が存在できない(エネルギー状態を持てない)領域:禁制帯(バンドギャップ)
と呼びます。
半導体・トランジスタに電流が流れるかどうかは、キャリア(電子または正孔)が、連続したエネルギー帯を通じて移動できるかどうかで決まります。
- n型半導体の場合
- p型半導体の場合
伝導帯に存在する電子が連続的に移動できる場合に電流が流れる。伝導帯の途中にエネルギーの壁(坂)が形成されると、 電子はそれを越えられず、電流は流れにくくなる。
価電子帯中の正孔が連続的に移動できる場合に電流が流れる。価電子帯の途中にエネルギーの壁(坂)が形成されると、 正孔の移動は妨げられ、電流は流れにくくなる。
このように、半導体中の電流は「どのエネルギー帯を、どのキャリアが連続して移動できるか」によって決まります。
では、トランジスタでは、このエネルギーの壁をどのように作り、電圧によってその壁をどのように動かしているのでしょうか。次節で解説します。






