シリコンのフォトルミネッセンス(PL):発光の種類

半導体Si基板はわずかな不純物の有無で抵抗率やゲッタリング能が変化するため、微量元素の定量が非常に重要です。

微量元素の測定法の1つとして用いられているのがフォトルミネッセンス法(PL)です。

Siのフォトルミネッセンス

シリコン フォトルミネッセンス

Siのフォトルミネッセンスは「バンドギャップよりもエネルギーの大きな光を照射し、生成した電子正孔対が再結合する際に放出される光を分析する方法」です。

Siはバンドギャップ1.12eV=1100nmの間接遷移半導体であり、バンド間遷移速度が非常に遅い特徴があります(ms~sオーダー)。

励起で生成した伝導帯・価電子帯に生じた自由電子・正孔は寿命が長く、不純物や欠陥準位が存在によりトラップされやすいと言えます。各種不純物・欠陥準位を介した発光波長・強度を解析することで、不純物・欠陥の種類と濃度を決定することが可能です。

SiのPL発光の種類

SiのPLには大きく4種類あります。

  • バンド端発光
  • 炭素
  • 転位
  • ドナー・アクセプタ

それぞれの発光について解説します。

バンド端発光

下図はデバイス工程で用いられるSTI(シャロートレンチアイソレーション)工程前後のCLスペクトルです。

Siのバンド端発光は1.12eV=1100nmに観察されます。

加工前の鋭いピークはSiのバンド間遷移(TO線)発光です。

工程後はTO線強度が減少し、新たにブロードなピークが生成しています。これは工程後の欠陥生成に伴う欠陥準位発光であり、バンド間遷移が減少したためと考えられます。

炭素

Siウェーハには炭素が不純物として含まれています。Si単結晶中の炭素の形態は大きく以下の2つに分類されます。

  • 置換型炭素Cs:シリコンの格子位置を占有
  • 格子間炭素Ci:シリコンの格子間位置を占有

置換型炭素Csは電気的に不活性ですが、格子間炭素Ciは酸素などの不純物と複合体と形成し電気的に活性となるため、デバイス不良を引き起こす原因になります。

従って炭素の定量は半導体デバイスにとって非常に重要です。

下図は炭素濃度2.07ppmaのSiウェーハにボロンイオンをドーズ(イオン注入)した試料のPLスペクトルです。

TO線(バンド端発光)以外に3本のピークが確認されます。

  • H線:1340nm
  • Ciに起因する発光

  • G線:1279nm
  • CiCs複合体起因の発光

  • C線:1570nm
  • CiOi複合体起因の発光

SiのPLでは置換型炭素Csの検出は出来ませんが、上記の炭素・複合体起因のスペクトルを分析することで、炭素濃度の定量が可能です。

転位

Si基板中の転位発生は、製品歩留まり・デバイスの電気特性に影響を与えます。転位もPL発光を有することが知られています。

下図はデバイス不良となったICのCLスペクトルです。CLは励起に電子線を用いた発光スペクトル解析です。

転位は0.81eV~1.0eVにピークを持つ発光を示し、D線と呼ばれます。D線は塑性変形したSi結晶で観察される発光であり、転位に起因すると考えられています。

この例では、Normal(良品)と比較し、Failure(不良品)で2本の強いD線発光が確認されており、デバイス工程での応力により発生した転位が不良につながっていると考えらえれます。

D線はD1~D4の最大4本のピークを有することが知られています。下図は塑性変形したSiの低温PLスペクトルです。

D1~D4の発光エネルギー・波長は以下の通りです。

  • D1:0.807eV=1537nm
  • D2:0.874eV=1419nm
  • D3:0.939eV=1321nm
  • D4:0.997eV=1244nm

以上のことから、Si中の転位はD線の有無と強度から定量することが可能です。

ドナー・アクセプター不純物

ボロン(B)やリン(P)など、Si中のドーパント不純物濃度はPL法で測定することが可能です(JIS法で規定)。

ドーパント不純物の定量には、低温で観察される励起子発光を用いる為、低温PL法で測定されます。

下図はBドープSi結晶の4.2Kでの低温PLスペクトルを示します。

低温PLでは、励起子がホウ素に束縛された不純物束縛励起子(BE)起因の発光などが複数確認されます。この強度を観察することで、ボロン濃度を定量することが可能です。

下図にPドープSi結晶の低温PLスペクトルを示します。

Si 低温PL リン

(出典:東京大学)

PドープSiにおいても、P原子により束縛された不純物束縛励起子(BE)起因の発光などが観察され、不純物濃度定量が可能です。

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