ペロブスカイト太陽電池とは:構造・動作原理・用途
ペロブスカイト太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池(Perovskite solar cell, PSC)は「ペロブスカイト構造を持つ化合物を利用した太陽電池」です。
低コストな製造プロセスで作れるため、次世代の高効率・低コスト太陽電池として注目を集めています。また、軽量でフレキシブルな特徴を生かし、多様な応用展開が進められています。
なお、ペロブスカイトとは、結晶構造の名前です。この構造を持つ材料は光吸収能が高く、電荷輸送にも優れるとされ、太陽電池の材料として優れているといわれています。
ペロブスカイト構造とは
ペロブスカイト構造とは、一般式「ABX3」で表される結晶構造で、代表的にはカルシウムチタン酸化物(CaTiO3)に見られる構造です。
この構造では、立方晶系の単位格子内で、次のように原子が配置されています。
- 格子の各頂点に「Aサイト」の原子(例:Caなど)
- 体心に「Bサイト」の原子(例:Tiなど)
- 各面心に「Xサイト」として酸素原子(O)
このような三次元ネットワーク構造により、電気的・光学的に優れた特性を発現します。
太陽電池に用いられる場合には、
- Aサイト:有機カチオン(CH3NH3+)
- Bサイト:鉛(Pb2+)
- Xサイト:ハロゲン(I-など)
とした、「有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト:CH3NH3PbI3」が代表的な材料です。
ペロブスカイト太陽電池の構造と発電原理
ペロブスカイト太陽電池は大まかに以下の5層で構成されます。
- 透明電極(transparent electrode)
- 電子輸送層(electron transport layer)
- ペロブスカイト層(perovskite layer)
- ホール輸送層(hole transport layer)
- 電極(electrode)
光を通しつつ、電流を取り出す役割を担う。
電子をペロブスカイト層から電極へ運ぶ層。
光を吸収し、電荷(電子とホール)を生成する主層。
ホール(正孔)をペロブスカイト層から電極へ運ぶ層。
外部回路へ電流を取り出すための導電層。
ペロブスカイト太陽電池の動作原理は以下の通りです。
- 太陽光が透明電極を通過し、ペロブスカイト層に到達
- 光エネルギーによって、ペロブスカイト層内で電子と正孔が生成
- 生成された電子は電子輸送層(ETL)へ、正孔はホール輸送層(HTL)へ移動
- 電子と正孔が分離・輸送され、電気エネルギーとして利用
基本的な動作原理はシリコン系太陽電池と同じです。
メリットとデメリット
メリット
- 低コスト
- 軽量・柔軟
- 高い変換効率
シリコンのような高温処理を必要とせず、塗布や印刷で製造可能なため、製造コストを大幅に抑えられます。
フレキシブル基板上にも形成可能で、曲面や衣類など新たな用途展開が可能です。
近年の研究で25%以上の変換効率が報告されており、シリコンと同等レベルに達しています。
デメリット
- 耐久性・寿命
- 鉛含有による環境リスク
- 量産・スケーラビリティ
湿気や熱に弱く、長期間安定して使用するには封止技術などの改善が必要です。
高効率なペロブスカイトには鉛が含まれるものが多く、環境・リサイクル面での懸念があります。
ラボレベルでは高性能を実現しているが、大面積かつ均一な製膜技術の確立が必要です。
ペロブスカイト太陽電池は材料としてのポテンシャルを秘めているものの、普及には課題があります。
用途
- モビリティ(Mobility)
- 建物の屋根・壁面・窓(Buildings: Roofs, Walls, Windows)
- 道路・交通インフラ(Roads and Transportation)
- 衣類・鞄・モバイル端末(Wearables and Portables)
軽量かつフレキシブルな特性から、電気自動車(EV)やドローン、キャンピングカーなどの可動体に太陽電池を搭載可能です。自家発電によって走行中や待機中でも電源供給ができます。
建材一体型太陽電池(BIPV)として、屋根や外壁、ガラス窓に統合可能です。透明性や色調整が可能なため、意匠性を保ちつつエネルギー創出ができます。
曲面への適応力により、ガードレールや遮音壁、駅舎の屋根などに設置可能。信号設備や道路標識の独立電源にも応用が期待されています。
ウェアラブルデバイスや鞄、スマートフォンケースなどに組み込むことで、日常的に発電・蓄電が可能。IoT時代の自己発電型小型機器への応用が進んでいます。
シリコン系とペロブスカイト太陽電池の違い
- 変換効率と製造コスト
- 柔軟性と自由度
- 耐久性と実用性
シリコン太陽電池は安定した効率と長寿命ですが高コストです。一方、ペロブスカイトは低温・低コストで製造可能です。
シリコンは硬く割れやすいのに対し、ペロブスカイトは薄膜で柔軟性があり、曲面や軽量化が求められる場所に適しています。
シリコンは長期間の使用に耐える耐久性があり実績も豊富ですが、ペロブスカイトは湿気や紫外線による劣化が課題で、耐久性向上の研究が進められています。
現状はシリコンが主流ですが、ペロブスカイトは建材一体型やモビリティ用など、軽量で柔軟性を活かした新用途での普及が期待されています。