走査型電子顕微鏡(SEM)とは:測定原理と応用例

走査電子顕微鏡とは

走査電子顕微鏡(SEM)は「試料に電子線を照射することで、ナノメートルオーダーの微小な表面構造を観察する装置・方法」です。

光学顕微鏡では光の波長よりも小さな物質を観察することはでききず、μmオーダーのものしか観察できません。SEMでは波長の短い電子線を使用するため、数nmオーダーの微小な構造を観察することが出来ます。

例えば、シリコンウェーハ上の異物観察やデバイス構造の確認など、半導体産業において最も広く使用されている測定法の1つです。また、電子線照射の際に発生する蛍光X線を解析することで、元素分析や元素マッピングも可能で、汎用性の高い測定法です。

原理

下図はSEMの測定を模式的に表した図です。

SEMでは「試料に電子線を照射・走査し、発生する二次電子を検出することで試料の凹凸を検出」しています。

SEMでは電子銃から電子を発生させ、電子レンズ(集束レンズ)で加速電子を集束させ、照射径を絞ります。次に、偏向器を用い電子線を走査します。電子線照射の際に発生する二次電子量を検出器で検出します。

二次電子とは?

物質に電子線を照射すると、様々な量子(電子やX線)が発生します。

二次電子は「試料に電子線を照射した際に、表面原子の価電子が放出されたもの」です。

物質に電子線を照射すると、様々な量子(電子やX線)が発生しますが、SEMではこの二次電子を検出しています。

二次電子で凹凸が分かる理由

ではなぜ試料からの二次電子で凹凸や形状が分かるのでしょうか。

理由は「エッジ効果・傾斜角」によって試料の角度により二次電子の発生量が異なるためです。

SEM エッジ効果

二次電子の発生量は「エッジ>傾斜面>平面」の順番に多くなります。二次電子の検出量から表面の凹凸を検出しています。

上図は、平面・傾斜面・エッジ面に電子線を照射し、発生する二次電子の拡散領域を示した模式図です。

電子線の入射量はすべての面で同じ深さですが、エッジや傾斜面ほど二次電子拡散領域が試料外まで位置し、二次電子放出量が多くなっています。

面の形状に応じて二次電子放出量が変化するため、二次電子の検出量で表面構造を決定しているのです。

エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)の原理

物質に電子線を照射すると、二次電子の他に複数の電子線・X線が発生します。

SEM-EDXは「試料に電子線を照射した際に発生する、蛍光X線を分析することで、元素分析・組成分析を行う分析法」です。

多くの場合、EDXはSEMに付随しているため、SEMに続いて測定します。

蛍光X線の発生原理は以下の通りです。

蛍光X線 発生原理

物質に十分なエネルギーの電子線を照射すると、内殻電子が励起され弾き出されます。内殻に生じた空孔(ホール)は不安定な為、外殻電子がホールに移動します。

その際、外殻と内殻のエネルギー差に相当するエネルギーのX線が放出されます。これを蛍光X線と言います。

蛍光X線のエネルギーはそれぞれの元素に固有な為、蛍光X線を調べることで元素を同定することが可能です。

EDXスペクトル例

上図は酸化鉄のEDXスペクトルです。横軸に蛍光X線のエネルギー、縦軸を強度とし、積分強度から各元素の定量を行います。

この例では、主成分である鉄(Fe)・酸素(O)に加え、シリコン(Si)・マンガン(Mn)といった不純物元素が確認されます。

また、Feの蛍光X線はLα・Kα・Kβの3種類が確認されます。

応用例

SEMおよびSEM-EDXは半導体デバイスの構造解析などに応用されています。

デバイスの故障解析

デバイスの断面SEM測定を行うことで、デバイス不良の原因推定を行うことが出来ます。

この例ではデバイスの断面SEM測定を行うことで、層間膜のクラックや、基板のクラックなどデバイス不良につながる欠陥を観察することが出来ています。

Siウェーハ上の有機不純物観察

SEMではSiウェーハ上の微小な有機不純物を観察することが出来ます。この例では、試料に導電性コートをする必要のない低加速電圧SEM(ULV-SEM)を使用しています。

Siウェーハ上の有機不純物が非常に鮮明に確認されているのが分かります。有機物の形状や、SEM-EDXと組み合わせることで有機不純物汚染の特定につながります。

半導体パッケージの表面汚染

SEM-EDXでは各元素ごとのマッピングを取得することが可能です。

パッケージ樹脂成分のSi、顔料インクの成分であるTiに加え、Naの汚染を観察することが出来ています。

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