赤外分光法(FTIR)とは:測定原理と応用例

赤外分光法とは

赤外分光法(FTIR)は「物質に赤外線を照射し、吸収された波長・強度を分析することで、物質の同定や官能基の評価を行う方法」です。

FTIRによって得られた波形を赤外吸収スペクトルと呼びます。物質はそれぞれ固有の吸収スペクトルを持つことから、データベースと比較することで物質の同定が可能です。

また、-OHや-CH3といった官能基もそれぞれ固有の位置に吸収帯を持つため、官能基の特定が可能です。

詳しくは後述しますが、半導体Siウェーハの酸素・炭素・窒素濃度測定にもFTIRが用いられています。ウェーハ中のSi-O-Siに起因する赤外吸収スペクトル強度から定量が可能です。

原理

原子同士の化学結合は固定されたものではなく、バネのような柔軟性を持っています。

原子同士の結合に赤外領域の光を当てると、赤外線を吸収し化学結合が振動します。吸収する波長や強度は、原子の種類や結合様式に固有なため、吸収エネルギーを分析することで化学結合の種類を知ることが出来ます。

化学結合の振動は「伸縮振動」と「変角振動」に大別されます。

FTIR 原理

各振動モードがそれぞれ異なる吸収エネルギーを持つため、1つの結合から複数の吸収ピークが確認されます。化学結合の振動は以下で分かりやすく動画にされています。

分子振動とIRスペクトル

応用例

FTIRは有機化合物の同定だけでなく、半導体分野にも応用されています。

Si中の炭素濃度の定量

Si中の炭素濃度はFTIRによって定量が可能です。

Si中の炭素は通常、Siを置換する形で格子位置を占有します。このような炭素を置換型炭素Csと言います。

置換型炭素は605cm-1に吸収ピークを有するため、その強度(吸収係数)から炭素濃度を算出することが可能です。

Si中の酸素濃度の定量

Si中の酸素濃度もFTIRによって定量されています。

Si中の酸素は格子間酸素Oiとして存在し、Oiは1106-1に吸収ピークを有します。その吸収係数から酸素濃度を算出することができます。

パッケージング不良の調査

半導体デバイス製造では、チップを衝撃や水分から守るため、モールディング工程で樹脂により封止されます。

パッケージング時に発生した不純物不良をFTIRにより解析し、原因を特定することができます。

下図は不良品となった半導体基板の写真です。基板上にシミが確認されます。

このシミのFTIR測定をした結果が下図です。

上がシミ、下がモールド樹脂のFTIRスペクトルです。

モールド樹脂はノボラック系のエポキシ樹脂と同定されました。一方、シミからはトリフェニルホスフィンオキシドが検出され、モールド樹脂とは異なる成分であることが分かります。

ここから、モールド樹脂の添加剤を汚染源として推測することが出来ています。

コメント

  1. kenshin より:

    勉強になります、質問があります。
    2サンプルを測定し、スペクトルが完全に合致した場合、分子構造が同じと言い切れるのでしょうか?

    1. semi-journal より:

      「完全に合致」しているのであれば、同じと言えます。

      スペクトルのピーク波数位置、強度が一致しているのであれば分子構造が同じと言えるでしょう。実際、FTIRでは未知試料のスペクトルと、既知試料のスペクトル(ライブラリ)を照合することで物質同定を行います。

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