透過型電子顕微鏡(TEM)とは:測定原理と応用例

光学顕微鏡では光の波長より小さなものを見ることが出来ません。そこで活躍するのがSEMやTEMといった電子顕微鏡です。

透過型電子顕微鏡(TEM)とは

透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)は「高電圧で加速された電子線を試料に照射し、透過した電子線を分析することで、形態観察を行う方法」です。

TEMは光学顕微鏡同様、試料の拡大像を得るものです。観察サイズ範囲は数十μm~サブnm(0.1)と非常に広い特徴があります。

原理

TEM 測定原理

TEMでは薄片試料に電子線を照射し、透過した電子を検出することで試料を観察します。

薄片試料に入射した電子線は試料を透過します。透過電子の量は試料構造や構成成分により変化するため、透過電子密度から顕微鏡像を得ることが可能となります。

TEMの原理は以下の動画が参考になります(20秒~)。

TEMの動作原理(動画)

なお、電子線が試料を透過するよう、試料は100nm以下に剥片化して測定されます。

TEMのコントラスト

TEM像では表面構造が見えたり、原子1つすらを見ることが出来ます。これは、波長の短い電子線を用いるTEMの分解能が高いことに加え、コントラストが付きやすい為です。

TEMのコントラストには大きく以下の3つがあります。

  • 散乱コントラスト
  • 位相コントラスト
  • 回折コントラスト

散乱コントラスト

散乱コントラストは、試料の影響を受けてTEMの透過電子密度が変わることによるコントラストです。散乱が強い部分は電子密度が減少し暗く、散乱が弱い部分は電子密度が高く明るくコントラストが付きます。

透過電子の散乱は、試料の電子密度が高いほど、言い換えれば原子番号が大きい順に大きくなります(像としては暗くなる)。一方、有機物や高分子材料といった、C・N・Oなどの軽元素から構成される試料では散乱が弱く、コントラストが付きにくい特徴があります。

そのような場合は、重元素を用いた選択染色によりコントラストを付与します。下図は高分子の相分離構造を測定したTEM像です(染色後)。

散乱強度の違いによるコントラストにより、相分離構造を明確に見ることが出来ます。

位相コントラスト

下図はTEMにより観察した格子像です。

原子が存在する部分は白、ない部分は黒と高コントラストが付いており、非常によく原子配列が観察されます。では、なぜこのようなコントラストが付くのでしょうか?それは位相コントラストの効果によるものです。

薄片試料に電子線を照射すると、そのまま透過する透過電子と、試料の電子により散乱された散乱電子が観察されます。散乱電子は振幅はそのままに、わずかに位相がずれた状態となります。

透過電子と散乱電子の位相を合わせるように焦点を調整すると、電子線の波の強め合いが起こり、より明るく映ります。原子のないところでは散乱電子が発生しないため、位相差は発生しません。

つまり、焦点調整による波の強め合いにより原子の存在部では白くなり、原子が存在しない部分では波の強め合いがなく黒く映るため、コントラストが付きます。これが位相コントラストです。

位相コントラストについては以下の2サイトが非常に参考になります。

その機能、使っていますか?~位相差観察編~

TEMでなぜ原子が見えるのか

回折コントラスト

下図は多結晶セラミックスコンデンサーのTEM像です。

すべて同じ物質にも関わらず、結晶粒が鮮明に見えていることが分かります。これは、回折コントラストの効果です。

各結晶粒(単結晶)は方位が異なるため、結晶粒ごとに電子線の回折条件が異なります。回折を起こした部分は明るく、回折条件を満たさない部分は暗く映ります。これが回折コントラストです。

電子線回折

TEMでは、電子線を照射することにより得られた回折パターンから、結晶構造を同定することが出来ます。これを電子線回折法と呼びます。

広い領域の平均的な回折パターンを得る粉末XRDとは異なり、TEMで観察される微小領域の結晶構造を決定することが出来ます。

原理

ブラッグの式

電子線回折では、入射電子の弾性散乱において、ブラッグの式:2dsinθ=nλを満たす場合に散乱強度が強くなる現象を利用します。

ブラッグの式から、入射電子の角度θと結晶面の面間隔dから導き出される2dsinθが波長λの整数倍の場合に、同位相となり回折が強くなります。

つまり、電子線の回折強度が強くなる入射電子の角度から、結晶面の面間隔、ひいては結晶構造を同定することが出来るのです。

測定例

結晶性試料の電子線回折を測定すると、結晶の対称性に従った回折スポット像が得られます。

この回折スポットの位置と角度から、結晶面間隔と回折スポット方位を求めることが出来ます。

TEMの応用例

TEMは半導体分野において広く応用されています。

デバイスの断面TEM観察

下図は3D-NANDフラッシュメモリの断面TEM像です。

垂直断面のTEM像から、3D-NANDの特徴である層状の構造が確認できています。この場合、36層積層されていることが分かります。また、水平断面のTEM観察から、規則的に並んだ円形のメモリセルが確認され、メモリセルは円形の層状構造であることが分かります。

また、以下はメモリセル部のEDX分析結果です。

TEM像から確認された円形のメモリセル層状構造に対応した元素マッピング像が得られています。メモリセル外周部は窒化チタン・酸化アルミニウムの層であることが詳細にわかります。

TEM+EDXの組み合わせによって、断面構造と元素まで分かるため、デバイス構造の最適化やリバースエンジニアリングに強力な手法です。

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