半導体のエピタキシャル成長
エピタキシャル成長とは
エピタキシャル成長とは「基板となる結晶の上に、結晶質の薄膜を成長するプロセス」です。
エピタキシャル成長には基板とエピ成長層の材料によって、ホモエピタキシャル成長とヘテロエピタキシャル成長に分けられます。
- ホモエピタキシャル成長
- ヘテロエピタキシャル成長
基板とエピ膜が同材料であるエピ成長。Si/Si,GaAs/GaAsなど。
基板とエピ膜が異種材料であるエピ成長。Si/Si,GaN/SiやSiC/Siなど。
Si/Siのエピ成長については、以下の記事で専門的に解説しています。
エピ成長機構
エピタキシャル成長機構は3つに分けられます。
- フランク・ファンデルメルヴェ成長(FMモード)
- フォルマー・ウェーバー成長(VWモード)
- ストランスキー・クラスタノフ成長(SKモード)
エピ層が1原子層ずつ、2次元的に成長する機構。1原子層が完全に成長したのちに、2層目が成長する。吸着原子と基板表面間の相互作用が、吸着原子間の相互作用より強い場合に起こる。
基板表面の核を中心に、3次元的・島状にエピ層が成長する機構。吸着原子間の相互作用が、吸着原子と基板表面間の相互作用よりも強い場合に起こる。格子定数ミスマッチの大きいヘテロエピ成長で発生する。
はじめは2次元的な層状成長をしたのち、臨界膜厚以上で3次元的な島状成長する機構。FMモードとVWモードの中間的な機構。
以下の式の通り、成長機構はエピ表面、エピ-基板界面、基板表面の自由エネルギーによって決定されます。
(1)フランク・ファンデルメルヴェ成長(FMモード)
$$E_{ep} + E_I \le E_S$$(2)フォルマー・ウェーバー成長(VWモード)
$$E_{ep} + E_I \gg E_S$$(3)ストランスキー・クラスタノフ成長(SKモード)
$$E_{ep} + E_I \ge E_S$$Eep:エピ層の表面自由エネルギー、 EI:エピ層-基板界面自由エネルギー、 ES:基板の表面自由エネルギー
すなわち、各表面・界面の自由エネルギーを最小とするようにエピ成長し、結果として二次元成長・三次元成長が起こります。
成長法の種類
半導体製造に用いられるエピ成長法の代表として、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)とCVD(Chemical Vapor Deposition)があります。
- 分子線エピタキシー(MBE)
- 化学気相成長(CVD)
いずれの方法も非平衡の成長・成膜方法です。以下詳細に解説します。
分子線エピタキシー(MBE)
分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)は「超高真空中で原料を加熱蒸発させることで、基板に薄膜を成長させる方法」です。
MBE法は10-7以下という超高真空のため、原子・分子の平均自由工程が長く、蒸発原料が基板に直進し成膜することができます。このため、原料原子・分子が基板に向かって直進します。これの原子・分子の流れを「分子線」と呼びます。
この直進性の高い分子線を用いることで、必要な種類の分子だけを、正確に、膜厚を分子単位で制御することが可能なメリットがあります。以下は分子線エピタキシーの成長メカニズムです。
- 表面に到達した分子が表面を拡散・移動
- 一部は再蒸発
- 一部は2次元構造の形成
- ステップエッジへの吸着
- ステップエッジへの吸着と、拡散・移動によるキンクへの吸着
このうち、どの段階が優勢かは成長条件(原子/分子種、分子線束、成長温度)と基板の状態(表面再構成、方位)に依存します。
下図はMBE装置の模式図です。
MBE装置では、高真空中でSi,Ge,Al,Ga,In,As,Pといった原料供給源が備え付けられています。各原料供給源には物理シャッターが搭載されており、分子線の供給を制御することができます。成膜時、面内均一性を高めるために基板は回転します。
MBEの大きなメリットの1つは、高真空中が必要な分析手法であるRHEED(Reflection of High Energy Electron Diffraction,反射高速電子線回折)を同時に実施できる点です。以下はRHEEDの原理を現した模式図です。
RHEEDは高真空中で、電子線を試料表面に対して1~3度の浅い角度で入射することで得られる回折像から、エピ層(結晶債表面)の状態を調べる手法です。
すなわち、高真空が必要なMBE装置はRHEEDにも適しており、成膜しながらエピ層の「その場観察(in-situ)」が行えるメリットがあります。
化学気相成長(CVD)
化学気相成長(Chemical Vapor Deposition)は「大気中または真空状態でガス原料(または熱・光・プラズマ等によってガス化した原料)を導入し、加熱した基板上との化学反応によって堆積させることで成膜する方法」です。
CVDの例としては、Si基板上へのSiのエピタキシャル成長があります。
$$SiHCl_3 + H_2 \rightarrow Si + 3HCl$$
Si基板上へのSiエピ成長では、Siを含む原料ガスをキャリアガスと共にエピ炉内に導入し、Si基板を高温(1000℃以上)に加熱します。基板表面上で、Si塩化物が熱分解または還元が起こり、Si基板上に原料ガス由来のSiが析出します。
有機金属気相成長(MOCVD)
CVDの一種として有機金属気相成長(MOCVD)があります。
MOCVD(Chemical Vapor Deposition)は「原料として有機金属やガスを用いた化学気相成長法(CVD)」です。化合物半導体の作製や、非常に薄い(数nm)薄膜の成膜に用いられています。
MOCVDの活用例としてはGaN(窒化ガリウム)の成長があります。
$$Ga(CH_3)_3 + NH_3 \rightarrow GaN + 3CH_4$$
有機金属原料としてGa(CH3)3(TMG)を使用し、NH3との反応によりGaNを製膜することが可能です。
GaN以外のIII-V族半導体も成長可能です。III族有機金属原料としてGa(CH3)3(TMG)、In(CH3)3(TMI)、Al(CH3)3(TMA)を、V族原料としてAsH3、PH3、NH3を用いることで、リン化インジウム(InP)、GaAs(ガリウムヒ素)などの化合物半導体を成膜することができます。