シリコンの偏析現象:偏析係数と固溶度
偏析現象とは
偏析現象とは「融液からの結晶成長において、融液中(液相)の不純物濃度と結晶中(固相)の不純物濃度が異なる現象」です。
基本的に、シリコンにおける不純物の偏析係数k0はk0<1であり、結晶化の過程において結晶中の不純物濃度は液相中の不純物濃度よりも低くなります。
融液中の不純物の一部のみが結晶に取り込まれるため、CZ法では結晶成長が進むにつれて、融液中の不純物濃度が増加していきます。
偏析係数とは
下図はシリコンの融点Tm近辺における、Siと不純物Aの2成分系相図です(k0<1)。
Si中の不純物A濃度における融点を表しており、不純物濃度が高いほど融点が減少していることが分かります。不純物Aの固溶度はSi固相中、Si液相中で異なるため、固相線と液相線が存在し、これらは融点Tmで交わります。
液相線より上は液相領域、固相線より下は固相領域、液相線と固相線に囲まれた領域は固体(固溶体)と液体が共存する領域です。
同じ温度(例えばTX)で見た場合、液相中の溶解度[CA]Lは固相中の溶解度[CA]Sよりも高いことが分かります。
不純物濃度[CA]が小さい場合、両線は直線で近似できるため、不純物Aの固相中の溶解度[CA]Sと液相中の溶解度[CA]Lの比率はその範囲一定となります。
すなわち
$$k_0 = \frac {[C_A]_S}{[C_A]_L}$$
であり、k0を平衡偏析係数と呼びます。
シリコン中のほとんどの不純物は常に[CA]L>[CA]S、すなわちk0<1です(不純物Aは融点Tmを降下させる)。
ちなみに、[CA]L<[CA]S、すなわちk0>1の場合の2成分系相図は以下の通りです。
k0>1の場合、不純物は常に融点Tmを高めます。Si中の酸素は偏析係数k0>1となるという報告があります。
偏析係数と固溶度一覧
シリコンにおける各種不純物の平衡偏析係数と固溶度を以下の表にまとめました。
元素 | 平衡偏析係数k0 | 固溶度[atoms/cm3] |
---|---|---|
H | - | - |
Li | 1×10-2 | 6.5×1019 |
Cu | 4×10-4 | 1.5×1018 |
Ag | ~1×10-6 | 2.0×1017 |
Au | 2.5×10-5 | 1.2×1017 |
Zn | ~1×10-5 | 6×1016 |
B | 8×10-1 | 1×1021 |
Al | 2×10-3 | 5×1020 |
Ga | 8×10-3 | 4×1019 |
In | 4×10-4 | 4×1017 |
Ti | 2×10-6 | - |
C | 7×10-2 | 3.3×1017 |
Ge | 3.3×10-1 | 全域固溶 |
Sn | 1.6×10-2 | 5×109 |
N | 7×10-4 | 5×1015 |
P | 3.5×10-1 | 1.3×1021 |
As | 3×10-1 | 1.8×1021 |
Sb | 2.3×10-2 | 7×1019 |
Bi | 7×10-4 | 8×1017 |
Cr | 1.1×10-5 | - |
O | 0.25-1.25 | 2.7×1018 |
S | ~1×10-5 | 3×1016 |
Mn | 4.5×10-5 | 3×1016 |
Fe | 8×10-6 | 3×1016 |
Co | 8×10-6 | 2.3×1016 |
Ni | 3×10-5 | 8×1017 |
一般に、k0は不純物元素の共有結合半径と強い相関がみられます。すなわち、共有結合半径が大きい程Si結晶中に入りにくく、偏析係数k0は小さくなります。
固溶度とk0とも相関が見られ、固溶度は共有結合半径が大きい程小さくなります。しかし、酸素・炭素・窒素の軽元素は他の不純物とは異なった挙動を示します。
固相中の不純物濃度計算
固化率gのときの、固相(結晶中)の不純物濃度[C]Sは下式で表されます。
$$[C]_S = k_0[C]_0(1-g)^{(k_0-1)}$$
[CS]:固相中の不純物濃度、 [C0]:液相中の不純物初期濃度、 k0:平衡偏析係数、 g:固化率
この式は、液相のノーマルフリージングを仮定した条件化での計算式です。
ノーマルフリージングとは以下の条件下での固化です。
- 不純物の固相中の拡散が無視できる
- 液相中の不純物濃度が均一
- 平衡偏析係数k0が一定
平衡偏析係数と実行偏析係数
平衡偏析係数k0はノーマルフリージングの3条件を満たし、液相の固化速度が無視できるほど小さい時にのみ有効な定数です。
しかし、実際のCZ法による結晶育成は、不純物の実行拡散速度以上の速度で固化するため、固相にはじき出されたk0<1の不純物は、固液界面付近に留まります。すなわち、固液界面付近では不純物濃度が高く、ノーマルフリージングによる平衡偏析係数k0が意味を持ちません。
そこで、固化速度、不純物の液素中の拡散、境界拡散層を考慮した実行偏析係数keffは下式で計算できます。
$$k_{eff} = \frac{k_0}{k_0+(1-k_0)\exp{(-G_s\delta/D)}}$$
$$\delta = 1.6D^{1/3}\nu_k^{1/6}\omega^{-1/2}$$
$$[C]_S = k_{eff}[C]_0(1-g)^{(k_{eff}-1)}$$
keff:実行偏析係数、 k0:平衡偏析係数、 GS:固化速度、 δ:拡散境界層、 D:不純物の液相中の拡散係数、 νk:融液の動粘性係数、 ω:結晶の回転数、 g:固化率
偏析現象のため、CZ法による結晶育成では結晶軸方向の不純物濃度分布は一定にはなりません。
固相中の不純物濃度計算ツール
融液中の不純物初期濃度・偏析係数・固化率を入力すると結晶中の不純物濃度が計算されます。
偏析係数keffまたはk0 [-]
不純物初期濃度C0 [atoms/cm3]
固化率g [-]
結晶中の不純物濃度 [atoms/cm3]
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