加速試験とアレニウスの法則:バーンイン時間と温度の関係

加速試験とアレニウスの法則:バーンイン時間と温度

半導体におけるバーンイン工程の効果:初期不良のスクリーニング

こちらの記事で、バーンインは「バスタブ曲線の初期故障期を、工場内で前倒しして終わらせる工程」だと説明しました。

では、なぜ高温にするだけで、本来数ヶ月〜数年かけて起こるはずの故障を、数十時間程度に短縮できるのでしょうか。その理論的な裏付けとなっているのが「アレニウスの法則」です。

アレニウスの法則とは

半導体のバーンインによる加速試験とアレニウスの法則

アレニウスの法則(Arrhenius equation)とは、「温度が上がるほど、化学反応の速度は指数関数的に速くなる」という、物理化学の分野で古くから知られる関係式です。

半導体の故障の多くは、絶縁膜の劣化や金属配線の劣化など、突き詰めると原子・分子レベルの化学的・物理的な反応によって進行します。この劣化の進行速度も、アレニウスの法則に従い、温度が上がるほど加速度的に速くなります。

バーンインで高温環境とするのは、この反応を加速させて劣化の進行を人為的に促進し、潜在的な不良を短時間で炙り出すためです。

物理化学におけるアレニウスの基本式は、下記のように表されます。

$$r = A \cdot \exp\left(-\frac{E_a}{k T}\right)$$

r:反応速度(劣化の進行速度)
A:頻度因子(原子の衝突回数・向きの指標)
Ea:活性化エネルギー (eV)
k:ボルツマン定数 (8.617×10⁻⁵ eV/K)
T:絶対温度 (K)

この式は、「反応速度rは、絶対温度Tの逆数に対して、指数関数的に変化する」という関係を示しています。

ポイントとなるのは、温度Tが分母に入った指数関数(exp)の形になっている点です。これにより、温度を直線的に(例えば20℃)上げるだけでも、反応速度(=劣化の進む速さ)は掛け算(指数関数的)で上昇することを意味します。

加速係数とは

実務では、通常使用時の反応速度(ruse)と、試験時の反応速度(rstress)の比をとることで、どれくらい劣化が加速されたかを示す「加速係数(AF)」を計算します。

$$AF=\frac{r_{stress}}{r_{use}}=\exp\left[\frac{E_a}{k}\left(\frac{1}{T_{use}}-\frac{1}{T_{stress}}\right)\right]$$

AF:加速係数
Ea:活性化エネルギー (eV)
k:ボルツマン定数 (8.617×10⁻⁵ eV/K)
Tuse:通常使用温度 (K)
Tstress:試験温度 (K)

加速係数(Acceleration Factor, AF)とは「通常の使用温度と比べて、試験温度でどれだけ劣化の進行が速くなるかを表す倍率」です。

式の中身は、「活性化エネルギー(Ea)」という故障の起こりやすさを表すパラメータと、通常使用時の温度・試験時の温度、この3つの数字だけで決まります。kはボルツマン定数と呼ばれる物理定数で、常に決まった値です。

活性化エネルギーは、対象とする故障のメカニズムによって異なる値を取ります。例えば、絶縁膜界面の欠陥に起因する故障ではおよそ0.7eV程度、金属配線のエレクトロマイグレーションではおよそ0.9eV程度が代表値として使われることがあります。

これらはあくまで一般的な目安であり、実際の値は製品や故障モードによって変わります。

加速係数の計算例

アレニウスの式と加速係数:計算例

仮に活性化エネルギーを0.7eV、通常の使用温度を55℃、バーンインの試験温度を125℃として先ほどの式に当てはめると、加速係数はおよそ80倍という計算結果になります。

つまりこの試算では、125℃で1時間バーンインをかけることが、55℃での使用条件におけるおよそ80時間分の劣化に相当する、という計算になります。

ただし、この「〇〇時間相当」という数字は、活性化エネルギーとして代表的な値を仮定した場合の試算例にすぎません。

活性化エネルギーは故障モードごとに異なるため、対象とする製品・欠陥の種類が変われば、計算結果も変わります。

実務ではJEDEC規格がベースになっている

実際の半導体業界では、アレニウスの法則を独自に計算するだけでなく、業界標準として整備された規格をベースにバーンインや加速試験の条件を決めるのが一般的です。その中心となるのが、JEDEC(半導体の標準化団体)が策定した規格群です。

  • JESD22-A108
  • 温度・バイアス条件下での動作寿命試験(HTOL:High Temperature Operating Life)やバーンインの試験条件を定めた規格

  • JESD91
  • 電子部品の故障メカニズムに応じた加速モデル(アレニウスモデルを含む)の構築方法を定めた規格

これらの規格には、代表的な試験温度・試験時間の条件や、加速係数の計算方法の考え方がまとめられています。各半導体メーカーは、これらの規格を土台にしつつ、自社製品の故障モードに応じた活性化エネルギーのデータを蓄積し、実際のバーンイン条件を決定しています。

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