半導体における水の重要性:なぜ半導体製造に大量の純水が必要なのか
半導体製造と水
半導体はスマホにパソコン、AIまで、我々の生活に欠かせない存在となっています。半導体製造には大量の水(純水、超純水)が必要です。その理由はいたってシンプルです。
半導体製造では「原材料となるシリコンウェーハの洗浄のため、大量の純水が必要」です。半導体製造工程(製造プロセス)のうち、約3-4割が純水を利用した洗浄工程とも言われています。
例えば、下図は半導体への成膜・フォトレジスト塗布工程の模式図です。
原料となるシリコンウェーハに成膜(例えば窒化膜)を形成する際、まずはシリコンウェーハを洗浄します。洗浄により表面のゴミや不純物を除去し、成膜に備えます。
成膜完了後、次のレジスト塗布工程前にも洗浄を行います。同じく、レジストを均一に塗布するため、表面のゴミや汚れを除去する必要があるのです。
このように、半導体製造においては各工程の合間に必ず洗浄工程が必要となります。これが、半導体製造には水が欠かせない理由です。
なぜ水なのか:科学的な原理
「洗浄(洗う)・洗浄(溶かす)」となれば水ですが、なぜ水が使われるのでしょうか。極端な例ですが、油ではだめなのでしょうか?
水は「高い溶解力・シリコンウェーハへの無害性・洗浄に適する低粘度」といった特性から、半導体製造に適しています。
すなわち、シリコンウェーハを傷つけることなく、微細な隙間まで届き、様々な汚れを溶解するのです。以下、水の特徴を解説します。
1.水分子の極性に起因した高い溶解力
| 溶媒 | 比誘電率 ε | 金属イオンの溶解力 |
|---|---|---|
| 水(H₂O) | 約 78 | ◎ 非常に高い |
| エタノール | 約 24 | △ 低い |
| アセトン | 約 21 | ✕ ほぼなし |
| ヘキサン(油系) | 約 1.9 | ✕ なし |
※ 比誘電率:値が大きいほど金属イオンを引き寄せて溶かす力が強い
水分子は数多くの化学薬品を溶解します。エタノールやアセトン、ヘキサンといった有機溶媒と比べて、水の金属イオンの溶解力は非常に高く、半導体の洗浄に適しています。
水(H₂O)の高い溶解力は「水分子の持つ極性」に起因します。
水分子は、酸素がマイナス、水素がプラスに帯電することで、極性を有しています。すなわち、水は極性溶媒です。これは、酸素と水素の電気陰性度の差によるものです。電気陰性度とは、原子が共有結合対を自原子側に引き込む力のことです。
極性溶媒(溶媒:とかす液体)は、溶質分子(溶質:とけている物質)を水和することで均一に分散させ、高い溶解力を発揮します。
例えば、食塩(NaCl)が水に溶ける現象を考えます。NaClは通常、イオン結合と呼ばれる強い結合によって結びついており、常温ではその結合はなかなか切れません。
しかし、水中では容易に結合が切断され、水1Lに360g(25℃)も溶解します。これは、水分子の極性による水和によるものです。
NaClは水中において、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)に解離します。
- Na+:マイナスに帯電した水分子の酸素により取り囲まれる
- Cl-:プラスに帯電した水分子の水素により取り囲まれる
このようにして、水分子が電離したイオンを取り囲み、安定化し、均一に分散させることで、水は溶解力の高い溶媒なのです。
2.シリコンウェーハへの無害性
シリコン(Si)は「常温・常圧の純水に対してはほぼ不活性」であり、実用上は溶解しません。
すなわち、水はシリコンウェーハに対して無害であり、ウェーハにダメージを与えることなく、洗浄することができます。
3.洗浄に適した低粘度
| 溶媒 | 粘度 (mPa·s) 低いほどサラサラ |
表面張力 (mN/m) 低いほど隙間に入りやすい |
|---|---|---|
| 水(超純水) | 約 1.0 | 約 72.8 |
| IPA | 約 2.4 | 約 21.4 |
| エタノール | 約 1.2 | 約 22.3 |
※20℃における値
水は粘度が低く(約1.0 mPa·s)、ナノメートル単位の微細な溝にもスムーズに侵入できます。一方で、表面張力が約72.8 mN/mと極めて高いという弱点もあります。
そのため実際の洗浄では、IPAや界面活性剤・機能水(水素水など)と組み合わせ、表面張力を制御した上で使用されます。
半導体製造に使われる水:純水・超純水
半導体製造には、一般的な水よりも高純度な「純水(pure water)・超純水(ultra pure water)が使用されます。いずれも、通常の水道水や工業用水よりも、不純物が非常に少なく、半導体製造には欠かせません。
半導体製造にでは、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の微細構造を有するシリコンウェーハを洗浄する必要があります。水にわずかなゴミや不純物が存在するだけでも、回路をショートさせてしまう等、問題が生じてしまうのです。
そのため、半導体製造には純水・超純水が必要不可欠なのです。
水が使われる半導体製造工程例
半導体の多くの工程で純水・超純水がが使用されます。いくつか例をご紹介します。
洗浄工程
半導体洗浄工程では大量の水を使用します。
半導体製造工程の約3割は洗浄工程とも言われています。洗浄工程において水は欠かせません。
エッチング工程
半導体製造のエッチング工程でも大量の水が使用されます。特にウェットエッチングでは水の使用が顕著です。
ウェットエッチングは「酸・アルカリ溶液とシリコンウェーハとの化学反応で、不要部を除去する手法」です。薬品の希釈・調合に大量の超純水を使用します。
ダイシング工程
半導体製造のダイシング工程でも水が使用されます。
ダイシング工程は「ブレードやレーザーにより半導体をチップに切断する工程」です。回転するブレードやレーザーの摩擦熱を抑え、切りくずを洗い流すために、冷却水として「純水」や「超純水」が多用されます。






