シリコンの熱酸化:成長メカニズム・Deal-Groveモデル
酸化膜の形成:ウェット酸化とドライ酸化
シリコン表面は反応性が高いため、酸化雰囲気に晒されると、直ちに酸化膜を形成します。ウェーハの熱酸化方法には下記の種類があります。
- ドライ酸化
- ウェット酸化
- パイロジェニック酸化
- スチーム酸化
乾燥酸素雰囲気での酸化。N2・O2の混合ガスを用いる。N2は稀釈ガス。
酸素と水蒸気を用いた酸化。H2O・O2・N2(稀釈用)の混合ガスを用いる。
水素と酸素と用いた酸化。H2・O2の混合ガスを燃焼させ、生じた水蒸気を用いてSi表面を酸化する。
水蒸気を用いた酸化。H2O・N2(稀釈用)の混合ガスを用い、水蒸気でSi表面を酸化する。N2を用いない場合は100%スチーム酸化となる。
ウェット酸化はドライ酸化よりも成長速度が速く、酸化膜密度が低くなるなど、酸化の方法によって酸化膜の成長速度や品質が異なることが知られています。
熱酸化の化学反応
Siの酸化反応式は以下の通りです。
$$ Si+O_2 \rightarrow SiO_2 $$ $$ Si+2H_2O \rightarrow SiO_2 + 2H_2 $$
Siの酸化では、まず「酸化種(O2やH2O)が表面のSi原子と反応し、SiO2を形成」します。その後、「Si表面に到達した酸化種はSiO2を拡散し、SiO2/Si界面に到達し、新たな酸化膜を形成」することで酸化が進行します。
酸化膜の形成はあくまでもSi基板と酸化種の反応です。基板を侵食する形で酸化が進行するため、SiO2/Si界面はシリコン内部に向かって移動していきます。
また、Si→SiO2の化学反応により、体積は約2.25倍に膨張します。下図は、酸化前と酸化後のシリコン表面を表した模式図です。

(出典:半導体シリコン結晶工学を基に筆者作成)
体積膨張するため、酸化後の酸化膜表面と、酸化前のシリコン表面の位置は異なります(酸化により表面が上方に移動する)。SiとSiO2の密度(Si:2.33, SiO2:2.24)と分子量(Si:28.09, SiO2:60.08)から、熱酸化膜の全厚さをtとすると、酸化により消費されたシリコンウェハーの厚さは0.45tと計算されます。
下図は、Si(100)面を[110]方向から観察した場合の、SiO2とSi界面の高分解能電子顕微鏡(HR-TEM)像です。
Si基板では結晶質特有の規則的な原子像が観察されるのに対し、SiO2ではランダムな無定形であることが確認できます。
また、Si/SiO2界面は原子レベルで平坦というわけではなく、数原子オーダーの凹凸を有することが分かります。この平坦度は酸化条件や結晶方位(面方位)に依存します。
ストーニーの式:反り量と応力
シリコンの酸化:Si→SiO2により、体積は約2.25倍に増大します。SiとSiO2の体積差・熱膨張係数差により、SiO2膜には圧縮応力が、Si基板には引っ張り応力が働きます。
薄膜形成による応力によって基板には反りが発生します。反り量から薄膜に働く応力を計算する式が「ストーニーの式」です。
ストーニーの式は以下の通りです(円形基板の場合)。
$$\sigma = \frac{{E_s}{t_s}^2}{6(1-\nu_s)Rt_F}$$
Es:基板のヤング率、 νs:基板のポアソン比、 ts:基板の厚さ、 tF:薄膜の厚さ
Deal-Groveモデル
Siの熱酸化はDeal-Groveモデルで説明されます。Deal-GroveモデルはSi熱酸化膜の成長速度を表した方程式です。
熱酸化膜の成長速度、すなわちdX/dt(Xは酸化膜厚)は以下の式で表されます。
$$\tag{1} \frac{dX}{dt} = \frac{k_sC^\ast}{1+\frac{k_s}{h}+\frac{k_sX}{D}}$$
X:酸化膜厚、 t:時間、 ks:シリコンの酸化反応速度定数、 C*:酸化膜中の酸化種の平衡濃度、 h:気相中の酸化種の物質移動係数、 D:酸化種の酸化膜中の拡散係数
(1)式を積分すると、Deal-Grove方程式は下記の(2)式で一般化されます。
$$\tag{2} X^2 + AX=B(t+\tau)$$ ここで、 $$\tag{3}A=2D(\frac{1}{k_s}+\frac{1}{h})$$ $$\tag{4}B=\frac{2DC^{\ast}}{N_{ox}} $$ $$\tag{5}\tau = \frac{{X_0}^2 + AX_0}{B}$$
X:酸化膜厚、 t:時間、 τ:厚さX0の酸化膜が既に存在している場合の時間シフト量、 ks:シリコンの酸化反応速度定数、 D:酸化種の酸化膜中の拡散係数、 h:気相中の酸化種の物質移動係数、 Dc*:、 C*:酸化膜中の酸化種の平衡濃度、
式(2)より、SiO2酸化膜厚が薄い場合、すなわちX0が小さい場合、X02は小さく無視できるため、Deal-Grove方程式の解は、
$$\tag{6}X = \frac{B}{A}(t+\tau)$$
と近似でき、酸化膜圧X0は時間tに比例して増加します。この近似が成り立つ領域を線形領域と呼び、B/Aを線形速度定数と呼びます。
一方、酸化膜圧X0が十分に厚い場合、X0と比較してAX0が十分小さく無視できます。方程式の解は、
$$\tag{7}X^2 = B(t+\tau)$$
と近似でき、酸化膜圧X0の2乗が時間に比例します。この近似が成り立つ領域を放物線領域と呼び、比例定数Bを放物型速度定数と呼びます。
Deal-Groveモデルから導かれる、酸化時間に対する酸化膜圧のグラフを下図に示します(※この例では、横軸および縦軸は時間・酸化膜圧を定数で割り変形した形になっています)。

(出典:早稲田大学)
このDeal-Groveモデルは、A,B,τを適切に選ぶと、ドライ酸化・ウェット酸化いずれにおいても、酸化時間tと酸化膜圧Xが幅広い温度領域で、実験が再現可能です。
Deal-Groveモデルについては早稲田大学 渡邉研究室のHPが非常に参考になりますので、ぜひご参照ください。
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