少数キャリアライフタイム(LT):測定原理と応用例
キャリアライフタイムとは
半導体に外部エネルギー(光・熱)を与えると、過剰キャリアを生成し非平衡状態になります。外部エネルギーが無くなると、生成した過剰キャリアは再結合により消滅していきます。
過剰キャリアのうち、多数キャリアの再結合速度は早い一方、少数キャリアは再結合までの時間が比較的長いことが知られています。
少数キャリアが再結合するまでの時間をライフタイムと呼びます。
下図は、生成した少数キャリア量の時間依存性を示したグラフです。
少数キャリアはエネルギーが高く不安定な為、時間経過と共に再結合します。
一般に、「熱平衡状態と比較し増加した少数キャリアの数が1/e倍となる時間をキャリアライフタイムと定義」します。
キャリアライフタイムは不純物や欠陥準位により短くなる為、半導体結晶の汚染を調べるために用いられています。
ライフタイム測定法
少数キャリアライフの測定は主に
- μ-PCD法(マイクロ波光導電減衰法)
- SPV(表面光起電力法)
によって行われます。
μ-PCD法
μ-PCD法(Microwave Photo Conductivity Decay)は「Siウェーハの過剰キャリア量をマイクロ波の反射量によって検出し、ライフタイムを測定する方法」です。
半導体結晶にレーザーを照射すると過剰キャリア(多数キャリア・少数キャリア)が生成します。
キャリア濃度が高いほど、マイクロ波の反射率が増加するため、Siウェーハにマイクロ波を照射し、その反射強度を測定することで、キャリア濃度推移を測定することができます。これがμ-PCD法の原理です。
時間の経過とともに、過剰キャリアが再結合し、マイクロ波の反射率が低下します。マイクロ波の反射強度が1/eとなるまでの時間がキャリアライフタイムτです。
SPV
SPV(Surface Photo Voltage)は「電極のついたSiウェーハに光を照射することで発生する表面起電力から、キャリアの拡散長を算出する方法」です。
SPVでは、半導体に光を照射した際の表面電位変化量を検出することで、キャリアの拡散長を測定することが出来ます。原理の詳細は以下の通りです。
2.光照射とキャリア生成
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、電子正孔対が生成します。
多数キャリア(n型の場合電子)は少数キャリアと比較し拡散距離が長く、一部は空乏層に達します。
3.電位障壁の低下
拡散したキャリアは、表面近傍の正に帯電したドナー原子と結合します。
正に帯電したドナー量が減少すると、バンドの曲がり、すなわち表面電界強度が低下します。この低下した電位量からキャリア拡散長を測定する手法がSPVです。
キャリア拡散長が大きいほど空乏層に達するキャリアの数が増えるため、SPVの変化量は大きくなります。反対に、拡散長が短い程SPVの変化量は小さくなります。
応用例
ライフタイム測定はウェーハの汚染検出や、結晶欠陥の検出に用いられています。
熱処理によるSiウェーハの汚染
ライフタイム測定はウェーハの汚染検出に用いられます。下図は縦型炉で熱処理を行ったSiウェーハのライフタイムです。
縦型の熱処理炉では、ウェーハを縦に積み重ねるボートを用いて熱処理を行うため、ウェーハの外周部はボートと直接接触します。(関連:アニール工程とは)
ボートに汚染金属が付着していた場合、熱処理によってSiウェーハに拡散し、接触部とその周辺を汚染します。LT測定により、外周部のLTが大幅低下していることが確認できています。
Siウェーハのスリップ検出
Siウェーハは結晶成長やプロセス熱処理の熱応力により、(111)面をすべり面としたスリップ転位が生じます。
転移とその周囲はSi結晶の完全性が乱れることから、ダングリングボンドが露出し、界面準位を生じます。界面準位は少数キャリアのトラップとなることから、LTが低下します。
この例では、(111)面に相当する洗浄のスリップ転位を明確に観察することが出来ています。
- キャリアライフタイム(大阪工業大学)
- μ-PCD法による半導体材料のライフタイム分析(東レリサーチセンター)
- キャリア・ライフタイム(SEMILAB)
- 少数キャリア・ライフタイム測定とは(SEMILAB)
- ライフタイム測定によるシリコンデバイス製造ラインの重金属汚染評価(千葉工業大学)
- μ-PCD法による酸化物半導体薄膜の評価装置(コベルコ科研)
- シリコンウエハーに混入した重金属汚染の検出(こべるにくす)
- Surface photovoltage(Wikipedia)
- 表面光起電力法を利用した p型シリコンウェーハ中のFe濃度測定法(JEITA)
- 少数キャリア拡散長測定 (SPV)(SEMILAB)
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