シリコンの窒化膜:用途・製法・性質
シリコン窒化膜の用途
シリコン窒化膜はシリコン酸化膜と比べて、優れた特性を有することが知られています。
シリコン窒化膜は緻密な構造を有し、化学的安定性に優れていることから、マスク材料、絶縁膜、水分バリア膜、酸化バリア膜、パッシベーション膜、メタル拡散防止膜などに利用されています。
なお、シリコン窒化膜は化学的にはSi3N4(N/Si=1.33)の組成を有しますが(製法にも因る)、一般にSiN膜として記されます。
窒化膜の製法:熱窒化法とCVD
シリコン窒化膜(SiN膜)には以下の様な製法があります。
- 熱窒化法
- 減圧CVD法
- プラズマCVD法
シリコンウェーハを窒素雰囲気中で高温に加熱(≥1100℃)することで窒化膜を得る製法。シリコン基板上の酸化膜を熱窒化し、シリコン窒化酸化膜を得る方法もある。
Si原料ガスとアンモニアガスを700-800℃で気相反応させ、Si基板上にSiNを成膜する方法。
Si原料ガスとアンモニアガスをプラズマ化し、低温(300-400℃)でSi基板上にSiNを成膜する方法。
熱窒化法
熱窒化法は「Si基板を窒素雰囲気中(N2またはNH3中)で高温加熱することで窒化膜を得る方法」です。1100~1300℃の高温熱処理が必要です。
SiとN2またはNH3の反応式は以下の通りです。
$$ 3Si+2N_2 \rightarrow Si_3N_4 $$ $$ 3Si+4NH_3 \rightarrow Si3N4 +6H_2 $$
シリコンの酸化と同様に、シリコンの窒化も生成したSiN膜中を窒化種が拡散し、SiN/Si界面で窒化種がSiと反応することで進行していきます。
SiN膜はSiO2膜よりも緻密です。SiN膜中の窒化種の拡散係数はSiO2中の拡散係数よりも著しく(10桁以上)小さいとされています。すなわち、シリコンの熱窒化反応は、熱酸化と比較して著しく遅い反応です。
シリコンの熱酸化:成長メカニズム・Deal-Groveモデル
CVD法
CVD法は「Si含有ガスとアンモニアガスを気相反応させ、Si基板上にSiNを成膜する方法」です。
CVDは大きく減圧CVD(LP-CVD)とプラズマCVD(PE-CVD)に分けられます。
減圧CVDでは、熱エネルギーによって原料ガスを反応させることでSiNを成膜します。原料ガス反応チャンバー内を減圧することで反応ガス分子の平均自由行程が長くなり、ウェーハ面内分布・ウェーハ間の膜厚均一性が高い特徴があります。
プラズマCVDでは、プラズマによるエネルギーで原料ガスを反応させSiNを成膜します。プラズマ化によって生成した反応性の高い反応種を用いるため、減圧CVDよりも低温(250~400℃)で成膜することが可能です。
CVD法によるSiN成膜の反応式は以下の通りです。なお、用いる原料ガスによって反応式が異なります。
$$ 3SiH_4+4NH_3 \rightarrow Si_3N_4 + 12H_2$$ $$ 3SiCl_4+4NH_3 \rightarrow Si_3N_4 + 12HCl$$ $$ 3SiCl_2H_2+4NH_3 \rightarrow Si_3N_4 + 6HCl + 6H_2$$
酸化膜の熱窒化
シリコン酸化膜を熱窒化すると、シリコン窒化酸化膜(SiON膜)が得られることが知られています。
$$ 2SiO_2 + xNH_3 \rightarrow Si_2N_xO_{4-1.5x} + 1.5xH_2O $$
ここで、0≦x≦2であり、xはプロセス条件に依存して変化しますが、X=2の以下の反応が優勢とされています。
$$ 2SiO_2 + 2NH_3 \rightarrow Si_2N_2O + 3H_2O $$
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