シリコン中の酸素の挙動:固溶度・定量・析出

Si中の酸素の役割・影響

半導体デバイスの多くはCZ法で製造されたシリコンウェーハを用いており、~1018原子/cm3の不純物酸素が含まれています(石英るつぼ由来の酸素)。不純物酸素はデバイス特性に正負の影響を及ぼします。代表的な影響は以下の通りです。

  1. ゲッタリング
  2. 酸素析出物は不純物金属のゲッタリングに有効。

  3. 機械的強度
  4. 固溶格子間酸素原子はウェーハの機械的強度を高めるが、酸素析出物(SiO2)は機械的強度を弱める。

  5. 酸素ドナーの形成
  6. 特定の温度帯で酸素ドナーを放出する。

このように、Si中の酸素はデバイス特性に影響を与えるため非常に重要な存在です。

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酸素原子位置と拡散係数・固溶度

シリコン結晶中の不純物酸素原子は、格子間位置を占有します。格子間位置の酸素はOiと表記します。

<111>方向に延びるSi-Si結合の間に割り込む形となり、Si-O-Si結合を形成します。

格子間位置の酸素原子Oiは、点欠陥との相互作用が少なく、格子間位置をジャンピングしながら拡散すると考えられています。シリコン結晶中の格子間酸素原子の拡散係数D(cm2/sec)は次式で表されます。

$$ D_{O_{i}} = 0.13exp(\frac {-2.53}{kT}) $$

また、単結晶シリコン中の酸素原子の固溶度[O]S(原子/cm3)は次式で与えられます。

$$ [O]_S = 9 \times 10^{22}exp(\frac{-1.52}{kT}) $$

上式から計算した、固溶度の温度依存性は以下のグラフになります。

通常、CZシリコン結晶に含まれる不純物酸素濃度[O]S~1018原子/cm3は、シリコン融点近傍の固溶度と同等であることが分かります。すなわち、CZシリコン結晶は室温・デバイスプロセス温度で常に過飽和な不純物酸素を含有しており、デバイス熱処理で常に析出しやすい状態にあります。

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格子間酸素濃度の定量:赤外分光法(IR)

シリコン単結晶中の酸素濃度の定量法には赤外吸収法(IR法)二次イオン質量分析法(SIMS)などがあります。

一般に、シリコン結晶中の格子間酸素濃度Oiの定量に広く用いられる方法は「赤外吸収分光法(IR法)」です。

格子間酸素の振動モード

下図はシリコン結晶中における格子間酸素の振動モードです。

Si-O-Si結合に起因する振動モードは3種類あります。

  • 対称伸縮振動ν01:1205cm-1
  • 対称変角振動ν02:515cm-1
  • 非対称伸縮振動ν03:1106cm-1

シリコン単結晶では、非対称伸縮振動ν03:1106cm-1の吸収量から酸素濃度を定量します。

格子間酸素濃度の定量

下図は、一般的なCZシリコン単結晶(as-grown)の室温におけるIR吸収スペクトルです。(a)はas-grown結晶、(b)は1000℃ 64h in O2熱処理後のスペクトルです。

格子間酸素Oiに起因する吸収が515cm-102)と1106cm-103)に明瞭に観察されます。一方、1205cm-101)の吸収は室温では強度が弱く、観察されません。

なお、1225cm-1の位置に小さな吸収が観察されています。これは、SiO2による吸収(νSO:1224cm-1)またはν03のサブピーク(ν'03:1227cm-1)と考えられています。

格子間酸素濃度[Oi]はν03:1106cm-1(λ=9.04μm)の吸収係数(α03)を用いて、次式で計算されます。

$$ [O_i] = f_c \alpha_{03} \ (\times 10^{17} 原子/cm^3)$$ $$ = 2f_c \alpha_{03} \ (ppma)$$

ここで、fcは変換係数で、α03は次式で与えられます。

$$ \alpha_{03} = \frac{\ln {\frac{I_0}{I}}}{x}$$

ここで、Iはν03の透過強度、I0はベースライン強度、xは試料の厚さ(cm)です。

fcには、下記に示す3種類の値があります。

  • newASTM:2.45
  • oldASTM:4.81
  • JEIDA:3.03

どの値を用いるかで[Oi]の値が変化します。従って、シリコン単結晶中の格子間酸素濃度Oiを算出・議論する際には、計算に用いたfcを明記することが重要です。

析出酸素量の算出

シリコン結晶中の過飽和酸素(固溶度以上の酸素)は熱処理によりSiO2として析出します。下図は、(a)はas-grown結晶、(b)は1000℃ 64h in O2熱処理後のIRスペクトルです。

Oiに起因するν02、ν03の吸収強度が減少し、SiO2に起因するνSO(1225cm-1)の吸収増大が確認されます。初期格子間酸素濃度を[Oi]0、熱処理後の格子間酸素濃度を[Oi]fとすると、析出酸素量Δ[Oi]は以下の式で計算されます。

$$ \Delta[O_i] = [O_i]_0 - [O_i]_f $$

Δ[Oi]:析出酸素量[Oi]0:初期格子間酸素濃度[Oi]f:熱処理後の格子間酸素濃度

ここで留意すべきは、IR法で測定するのは格子間酸素原子であって、全酸素(SiO2など)ではありません。シリコン単結晶中の固溶酸素原子は、ほぼ100%格子間位置の酸素(Oi)と考えられていますが、酸素析出も含めた全酸素の測定にはSIMSなどの測定が必要です。

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酸素析出

CZシリコン結晶中には、石英るつぼ(SiO2)に起因した酸素が含有されています。シリコン融液と石英るつぼが反応し、酸素が融液に溶け込むことで、結晶中に混入します。

Si結晶中の酸素析出反応は以下の式で表されます。

$$ Si + xO_i \rightarrow SiO_x + I $$

ここでOiのiは、析出前の酸素原子が格子間位置(Interstitial site)にあることを示します。また、右辺のIは格子間Si(Interstitial)を示します。

すなわち、酸素析出はSiが格子間位置の酸素Oiと反応しながら進行し、SiOxを形成しながら格子間シリコンを放出します。

その理由は、酸素析出(SiO2)の周りには強い圧縮歪みが発生しているためです。例えばx=2の場合、SiO2はSiの体積の約2.2倍に膨張します。すなわち、析出物は周辺のSi原子を格子間位置に押し出す結果、格子間シリコンが放出されます。

したがって、あらかじめ結晶中に格子間シリコンが多い状態を作り出すと酸素析出しにくく、反対に空孔が多い状態を作り出すと酸素析出しやすいシリコンウェーハとなります。

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不純物炭素

シリコン結晶中の不純物炭素原子は、酸素析出を促進することが広く知られています。

炭素原子による析出促進メカニズムは、置換位置炭素:Csによる格子体積収縮によって説明されます。

すなわち、Csによって格子が収縮し、格子間原子を引き付ける・許容できるようになるため、格子間Si放出を伴う酸素析出を促進します。

サーマルドナー(TD)

シリコン結晶中の酸素原子は、300~500℃で凝集し、ドナー化し電子を放出することが知られています。これをサーマルドナー(Thermal Donor, TD)と呼びます。ドナー化速度は450℃で最大に達します。

サーマルドナーはドナーのため電子を放出し、形成されるとシリコンウェーハの抵抗値が所望の値から大きく変動します。

シリコン基板のCZシリコン単結晶は、融液の固化から冷却においてこの温度帯を必ず通過するため、as-grown状態では所望の抵抗値から大きく変動し、時にはp型からn形に変化してしまうことさえあります。

酸素によるサーマルドナーは650~800℃で乖離し、その後急冷することによって消滅することが知られています。

したがって、シリコンウェーハはドナー消去(またはドナーキラー)と呼ばれる熱処理を経て、抵抗率を安定させたうえで出荷されます。

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