シリコンの結晶欠陥:空孔・転位・析出物とは
Siの結晶欠陥:空孔・転位・析出物
半導体デバイスの微細化・高集積化に伴い、シリコン結晶の「微小欠陥(microdefect)」の悪影響が問題視されています。
微小欠陥の大きさに定義はありませんが、一般に、「nm~μmオーダーの欠陥を微小欠陥」と呼びます。
デバイス特性に影響与える微小欠陥は大きく分けて、以下に示す3つです。
- Void(空孔凝集体)
- L-pits(格子間Si凝集体)
- 酸素析出物
Si結晶中の原子空孔が凝集して形成される空洞。
Si結晶中の格子間シリコンの凝集体、クラスター。巨大化すると転位を生成する。
Si中に含まれる酸素によって生じる、巨大な酸素析出物(SiO2)。
点欠陥:原子空孔と格子間原子
微小欠陥であるVoidやL-pitsは原子空孔や格子間シリコンといった「点欠陥」が凝集することで形成されます。すなわち、微小欠陥を議論するには、点欠陥の導入を学ぶことが重要です。
シリコンの結晶構造において「正規の格子位置から外れ、格子間に存在する原子を自己格子間原子(interstitial)、原子が抜けた格子点を空孔(vacancy)」と呼びます。
格子間原子と空孔はボロンコフ理論(Voronkov's theory)に従い結晶成長時に導入される場合と、シリコンの熱酸化・熱窒化により格子間シリコン・原子空孔が後発的に導入される場合があります。
なお、上図の通り、1個の格子間原子と空孔が遭遇すれば消滅します。これを対消滅と呼びます。
点欠陥の導入:ボロンコフモデル
シリコン単結晶中の原子空孔・格子間シリコン濃度は、結晶成長条件に依存することが知られています。中でも重要とされているのが引き上げ速度Vと液相/固相界面付近での軸方向温度勾配Gの比です。
引き上げ速度Vと軸方向温度勾配Gの比「V/G」がある値よりも大きいと原子空孔過多(V-rich)、小さいと格子間原子過多(I-rich)のSi結晶が得られます。その境界を決定する臨界V/GはVorokonv条件と呼ばれ、無欠陥の結晶を得るための重要な指標です。
下図は、異なる結晶引き上げ速度Vで引き上げたSi単結晶の品質を表した図です。
左側がSiウェーハ面内の欠陥領域分布(V-richまたはI-rich)を示しており、右側の図が結晶の軸方向断面図と欠陥領域を示しています。引き上げ速度はV3>V2>V1>Vcritであり、Vcritは臨界V/G、すなわち無欠陥結晶が得られる条件です。
VはVoidすなわちV-richを表し、LはL-pitすなわちI-richを表します。その境界にはOSF(oxidation-induced stacking fault)が存在し、原子空孔優勢・格子間シリコン優勢の境界、すなわち無欠陥領域と考えられます。
- Vcritの場合
- V1の場合
- V2の場合
- V3の場合
引き上げ速度が適正なため、中心でOSF領域=無欠陥領域となる。結晶外周部は結晶中心部よりも冷却速度が速いためGが大きくなる。外周V/G<中心V/Gとなることから、外周部はI-rich領域となる。
VcritよりもVが速く、V/Gが大きくなるため中心がV-richとなる。外周はV/Gが小さいため、I-rich領域となる。
V1よりもVが速く、V/Gが大きくなるため中心がよりV-rich領域となる。またV-rich領域の範囲も拡大する。
V2よりもVが速く、V/Gが大きくなるため、ウェーハほぼ全面がV-rich領域となる。
このように、Si結晶への点欠陥導入は引上げ条件の影響を大きく受けることが知られています。結晶成長時に導入された原子空孔や格子間シリコンといった点欠陥が、結晶成長中やデバイス工程中に凝集し、大きな結晶欠陥を形成します。
酸化・窒化による点欠陥導入
シリコンの酸化・窒化によっても基板に格子間シリコン・原子空孔が導入されます。
- シリコンの酸化
- シリコンの窒化
SiO2の成長によってSi基板に圧縮応力が掛かり、格子間シリコンが導入されます。圧縮応力を緩和するために、格子点のシリコンが格子間位置に吐き出されるためです。
Si3N4の成長によってSi基板に引っ張り応力が掛かり、原子空孔が導入されます。引っ張り応力によって格子が広がり、原子空孔が生じます。
このように、酸化・窒化によって、シリコン基板に後天的に点欠陥が導入されます。
シリコンの熱酸化:成長メカニズム・Deal-Groveモデル
COP(V-rich)
シリコン結晶中の原子空孔は結晶成長中やデバイス工程中に凝集し「COP(crystal originated particle)」と呼ばれる空洞(void)を形成します。
下図はCOPのTEM像です。
通常の成長条件では、COPは(111)面で囲まれた八面体形状をしています。一方、窒素をドーピングした結晶では、板状(platelet)または棒状(rodlike)になることが知られています。
また、COPの内表面に5nmの酸化層が確認されます。FZ結晶では石英るつぼ(SiOs)を使用しないことから結晶中の酸素濃度が低く、酸化層は形成されません。
COPはTZDB・TDDBなどの酸化膜耐圧を劣化させることが知られています。
MOSFETのゲート絶縁膜信頼性評価:TZDBとTDDBの違い
歴史的に、原子空孔の凝集体(Void)は以下に示す様々な呼称が存在しています。
- COP:Crystal Originated Particle
- LSTD:Laser light Scattering Tomography Defect
- FPD:Flow Pattern Defect
- D-Defects
現在では、これらの欠陥はすべて同じ原子空孔の凝集体として受け入れられています。
L-pit(I-rich)
シリコン結晶中に導入された格子間シリコン原子は、結晶成長中やデバイス工程中に凝集し「L-pit」を形成します。L-pitは結晶内で完結する転位である「転位ループ」であることが知られています。
下図はL-pitのTEM像です。
円形の転位が明確に確認され、L-pitは転位ループであることが分かります。L-pitは格子間シリコンが凝集し形成される、侵入型積層欠陥に起因すると考えられています。
下図は原子空孔型・格子間原子型転位の模式図です。
転位には2種類の型が存在しますが、通常シリコン結晶中に観察される積層欠陥は格子間シリコン原子に起因した格子間原子型転位です。
すなわち、結晶中に導入された格子間シリコン原子が凝集し、小さな積層欠陥を形成します。積層欠陥が臨界サイズ以上になると、シリコン結晶格子が許容できる臨界応力を超え、転位をループが形成されます(応力を転位が緩和する)。これがI-richでL-pit・転位が形成される原理です。
析出物
CZ法で作製したシリコン結晶中には石英ルツボ由来の酸素が混入しています。
シリコン結晶中の酸素はシリコンと結合し析出物(SiO2)を形成します。
SiO2は形成時にSiの2.2倍の堆積膨張を伴うため、析出物が原因となり転位ループや積層欠陥が発生するため、デバイス工程で問題となります。
一方、酸素析出物は不純物金属のゲッタリングサイトとして働くため、デバイス工程での表層金属汚染を低減する効果があります。